研究実績の概要 |
脂肪族アルデヒド間の直接的な交差アルドール反応は、ホモアルドール反応や重合が競合し、極めて制御困難な反応である。この反応を達成するには、異なる基質のホルミル基を、エノール成分(求核種)とカルボニル成分(求電子種)に区別し反応させなければならない。本研究は、おだやかな反応性を持つ不斉触媒を開発すれば、ホルミル基の微妙な反応性の差を触媒的に識別でき、脂肪族アルデヒドの直接的かつ立体選択的な交差アルドール反応が実現できると考え実施した。 前年度までに、軸性不斉アニリン型酸塩基触媒を用い、非対称な脂肪族 1,6-ヘキサンジアールの分子内不斉交差アルドール反応を、高位置・高立体選択的に達成した。本研究の鍵は、触媒の活性中心となるアニリン性アミノ基のおだやかな反応性のため、区別困難なホルミル基を精密に識別できたことにある。今年度は、この分子内の反応系を分子間での交差アルドール反応に展開した。その結果、アニリン型酸塩基触媒は、分子間反応においてもアルドール反応を触媒することを明らかにした。さらに、その反応は、高い立体選択性を示すのみならず、高い交差選択性で異種の脂肪族アルデヒドが結合した交差アルドール体を与えることを明らかにした。従来、このような異種アルデヒド間の交差反応では、交差生成物を優先的に得るため、一方の基質の過剰使用や、スローアディションが必要であった。今回開発したアニリン型酸塩基触媒を用いる反応系では、そのような操作を必要とせず、基質の等量混合物中に触媒を添加するだけで交差付加体が優先して得られる。今後も基質の適用範囲の拡大など、さらに検討を続けていく予定である。
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