研究実績の概要 |
昨年度までに、D環上に官能基化の足掛かりとなる置換基を持たないモデル基質を用いて検討を行い、架橋多環式化合物がポリエン環化反応により構築可能なことを明らかにした。その結果を踏まえ、本年度は全合成を見据えて、C8位にTBSオキシ基を持つ基質を用いて環化反応を試みた。 モデル実験で良好な結果を与えた塩化ジエチルアルミニウムを反応剤とした場合、B環のみ形成された化合物の生成が主となり、反応温度を変えても目的とする三環性化合物の収率改善には結びつかなかった。そこで、反応剤のスクリーニングを改めて行ったところ、塩化鉄を用いると良好な収率で目的化合物が得られることを見出した。塩化ジエチルアルミニウムとは異なり、本反応剤存在下ではB環のみ形成された化合物から目的化合物への変換が進行した。この知見を活用すべく反応温度についても調べた結果、反応剤を低温で加え、原料消失後に昇温すると収率が10%程度改善されることがわかった。現在はA環の構築に向け、C15位への炭素鎖導入を検討中である。 ところで、環化反応の基質はパン酵母による不斉還元で得られる文献既知化合物を出発原料としてこれまで調製していたが、18工程を要する点が問題であった。この問題を解決すべく、1,3-シクロヘキサンジオンにはじめからゲラニル単位を導入した基質を調製し、化学的な方法による非対称化を試みた。その結果、キラル塩基による不斉脱プロトン化を利用すると、目的とする合成中間体が短工程で得られることが明らかとなった。ただし、不斉収率は70%eeにとどまったことから、その改善は今後の課題である。
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