全世界におけるガンによる年間死者数は年々増加すると予測されており、副作用が少なく、低用量で効果を示すガン細胞選択的な新しいタイプの分子標的治療薬の開発が望まれている。そのような中、ガン細胞選択的に作用する抗ガン剤の標的として、DNA修復機構のG2 checkpointが注目を浴びており、北里大学においてその特異的阻害剤である新規天然物habiterpenol (1) が発見された。今後の創薬研究を進めるためにも新規誘導体の合成に対応可能な応用性の高い、1の全合成経路の確立を目指した。その結果、市販の(3aR)-(+)-sclareolideより種々官能基変換を経て、重要中間体の一つであるアルデヒド2を合成し、もう一つの重要中間体であるインデン骨格を有するヨージド3を酵素を用いた非対称化反応を経て不斉合成した。次いで、2と3をカップリング後、酸化して得られたケトン中間体4より、当初の計画通り、ルイス酸を用いた分子内マイケル付加反応を試みたが、反応は進行して環化生成物を与えるものの、予想に反し、1箇所立体化学が異なる5が主生成物となることが判明した。そこで、反応機構を推察し、鍵反応を分還元的ラジカル環化反応へと変更し、基質も2をエポキシアルデヒド6へと変換した。先と同様に、6と3をカップリング後、酸化して得られたケトン中間体7より、サマリウムヨージドを用いた還元的ラジカル環化反応を行ったところ、今度は所望の立体配置を有する環化生成物8を高収率で得ることに成功した。全ての炭素骨格および立体化学を構築できたため、その後残りの化学変換を試み、1の全合成の達成を試みたが、最後のBC環の核間にあるヒドロキシメチル基の脱酸素化反応だけがどうしても達成できなかった。結果、期間中に全合成を達成することができなかったが、若干合成経路を変更し、1の全合成達成に向けて研究を継続していく予定である。
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