研究課題/領域番号 |
26460014
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
北川 理 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (30214787)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 軸不斉 / アミン / プロトン酸 / エナンチオ選択的 / ルイス酸 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,炭素-窒素軸不斉環状アミンの不斉軸の回転速度がプロトン酸の添加により加速される理由の解明と,キラルプロトン酸を用いるエナンチオ選択的異性化について検討した. まず,エナンチオ選択的異性化の前段階として,光学活性な炭素-窒素軸不斉環状アミンを用いて,種々のアキラルなプロトン酸の存在下,不斉軸の回転速度(ラセミ化速度)の変化を精査した.その結果,プロトン酸の添加量や酸性度の増加と共に回転速度が向上することを見いだした.また,プロトン酸による回転速度の向上はプロトン化アミンの生成に基づくことを明らかにした.さらに,DFT計算により不斉軸回転の遷移状態を考察したところ,プロトン化アミンでは,不斉軸がアキシアル配向(アミンの場合はエクアトリアル配向)をとることで立体反発が緩和され,回転速度が向上していると予想された. 以上の知見を基に,キラルプロトン酸を用いるエナンチオ選択的異性化について検討した.すなわち,ラセミックな炭素-窒素軸不斉環状アミンの溶液に,1当量のカンファースルホン酸やビアリール型キラルリン酸を添加し,室温で数時間撹拌した.その結果,キラルリン酸を用いた場合,最大55%eeで軸不斉アミンが得られたものの,反応ごとに不斉収率が大きくばらつき(15-55%ee)再現性の面で問題を残した.この理由として,軸不斉アミンの回転障壁が低いことが考えられ(25.1 kcal/mol),精製の際に一部ラセミ化が生じるため,不斉収率がばらつくものと推定した. また,この研究の途上,炭素-窒素軸不斉ベンゾキノリノンの回転障壁が類似の構造を有する軸不斉キノリノンに比べ大きく低下していることを見いだし,回転障壁低下がベンゾキノリノンにおける不斉軸の反り上がり構造に起因することも明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は既に,光学活性な炭素-窒素軸不斉環状アミンに対し1当量のスルホン酸を添加すると,瞬時にラセミ化する(不斉軸の回転が瞬時に起こる)ことを見いだしている.このような現象は過去に報告されておらず,学術的にも大きな興味が持たれた.今回,プロトン酸による不斉軸の回転速度向上がプロトン化アミンの形成に基づくことを明らかにし,また,そのメカニズムについて解明できたことは,今後エナンチオ選択的異性化を考える上で有用な情報になり得るものである.さらに,不斉軸の回転速度が添加するプロトン酸の酸性度や当量数によって制御可能なことも見いだした.酸によって結合の回転速度が向上する分子は,プロトングリースと呼ばれるローター分子として知られいる.今回の結果は,新たなタイプのプロトングリース分子を提供するものであり,分子デバイスの分野からも注目される. このように,昨年度は不斉軸回転のメカニズムに関しては大きな進展が見られたものの,エナンチオ選択的異性化については,結果(不斉収率)にばらつきが見られ,問題を残した.昨年度内にエナンチオ選択的異性化の最適化条件の確立を目指していたので,この点では年度計画から遅れをとっていると言わざるを得ない.以上の点より,トータルで考えると,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
上述したように,エナンチオ選択的異性化で再現性が得られなかった理由として,当該軸不斉アミンの回転障壁が低いことに起因すると考えられる.すなわち,当該軸不斉アミンは固体状態では室温で数ヶ月間放置しても,エナンチオマー過剰率に変化は見られないが,溶液中での回転障壁は25.1 kcal/molであり,常温でも一部ラセミ化が進行する.エナンチオ選択的異性化後,抽出やカラムクロマトを行なっており,この間光学活性アミンの一部ラセミ化が進行し,不斉収率にばらつきが見られたものと考えた(特にカラムクロマトの際にラセミ化が進行している可能性が示唆された). そこで,今年度は分離精製の際のラセミ化を無視できるより高い回転障壁を有する(少なくとも27 kcal/mol以上の回転障壁を有する)軸不斉アミンを考案ならびに合成し,キラルプロトン酸を用いるエナンチオ選択的異性化を検討する. また,この際,キラルプロトン酸に加えキラルルイス酸を用いることにより,高いエナンチオ選択性の発現を目指す.
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