研究実績の概要 |
シリルアセタールは、通常のジアルキルアセタールとは異なった方法で脱保護できる。研究代表者は、これまでに環状構造を有するシリルアセタールの効率的な合成手法を確立し、フッ化物イオン処理を経るシリルアセタールの活性化法を報告した。本研究では、更なる展開として種々のラクトンから合成した環状シリルアセタール(シリルラクトールエーテル)のフッ化物イオン処理を引き金とするカスケード反応を開発し、従来法では合成が難しかった多置換芳香族化合物の選択的な合成法の開発を目指している。 本年度は、前年度の研究成果を踏まえ、4-アルキニルイソクマリンから対応するシリルアセタールの合成を進め、フッ化物イオン処理によるカスケード反応を完成させた。本手法を活用すると入手容易な4-アルキニルクマリンから2段階で1,2,3,4-四置換ナフタレンが得られた。多置換ナフタレンの合成では、目的としない構造異性体の副生や分離が難しく、また反応そのものが上手く進行しないケースがしばしば報告されている。一方、研究代表者の方法では一種類の生成物のみが特異的に得られ、かつ、4つの置換基は化学的にまったく異なったものであった。そのため、得られた1,2,3,4-四置換ナフタレンを用いて、更なる環形成を行うことも可能であった。実際、3つ、ないし、4つの炭素環が縮環した多環式芳香族炭化水素を、続く閉環反応によって得ることができた。 こうした検討の途上、偶然にも4位にエンイン構造を組み込んだイソクマリンから得たシリルアセタールをフッ化物イオンで処理すると、1,2,3,4-四置換ナフタレン生成反応の中間体から更なる電子環状閉環反応が進行することを見いだした。この際の生成物は、3つの炭素間が屈曲した形で接合された置換フェナントレンであり、この際も唯一つの構造異性体が得られた。
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