研究課題
世界各地の海洋や湖沼を生息域とした緑藻類は水質の浄化と維持に極めて重要な役割をにない、水生生態系の主要な歯車として機能してきた。しかしながら、近年では、温暖化に伴う水温上昇や人的な水質汚染が引き金となって異常増殖し、ある海域ではグリーンタイド(緑潮)とよばれる異様な緑海を作りだし、また、時には、ため池や湖水等を真緑色に染めるアオコの原因の一つとなっている。これらの爆発的な増殖現象は、自然環境への打撃はもちろんのこと、他の水棲生物や魚の死滅腐敗をまねくことから、漁業をはじめ取水源としての利用や衛生管理等にも甚大な被害を与え、近隣住民への健康被害も懸念されている。しかしながら、現段階において有効な防止予防策はない。最近では、東北地方の湖やため池の放射能汚染を除染する際にも作業を苦しめる要因になった。このような背景のもと、今回の申請課題では、緑藻類の成長促進因子として発見された超高活性天然物サルーシンに着目し、これを模造した類似体を化学合成することで、藻類の成長を抑制する防藻剤の創製を目指す。初年度に相当する26年度は、サルーシンの基本骨格となるテルペン骨格に着目した類似体を系統的かつ網羅的にラセミ合成して、緑藻類の一種であるマキヒトエに対する効果を確認した。合成した類似体はどれもAおよびC環部に着目した構造・立体異性体であったが、本合成研究を行う過程で、テルペン骨格特有の全く新しい反応性を見出すこともできた。
1: 当初の計画以上に進展している
計画したほぼ全て化合物の合成を達成することができた。そして、それらを用いた活性スクリーニングを通じて、藻類の成長を効果的に抑制する防藻剤候補化合物を見出すことに成功した。現在は活性の再現性を確認している最中である。本課題研究は、当初の予定とおり順調に進展しており、今後もその計画に準じて研究を進める予定である。
次年度となる27年度は、選定した防藻剤候補化合物のエナンチオマーを不斉合成して、活性評価を行う予定である。報告者は、これまでも光学活性なサルーシンの合成に取り組んできたことで、独自の光学分割法を開発し、昨年2014年に化学系論文誌(The Journal of Organic Chemistry)に報告した。したがって、その間に培ったノウハウや技術を応用すれば、問題なく選定した防藻剤候補化合物の不斉合成も達成できると考えている。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
The Journal of Organic Chemistry
巻: 79 ページ: 8850-8855
10.1021/jo501720b