研究課題/領域番号 |
26460027
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
加来 裕人 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (90299339)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不斉分子認識 / ホスト-ゲスト化学 / 平衡複雑系 / 包接錯体 / TADDOL型ホスト分子 / デラセミ化 / ジアステレオ制御 / 光学活性化合物 |
研究実績の概要 |
平衡系を用いた反応では,通常反応生成物が混合物となる.今回,熱力学的な平衡条件下において,不斉結晶場での分子認識現象を利用した新たな方法論による光学活性化合物の供給法の開発に着手した.本年度の成果は以下のとおりである. 1.α位に置換基を有する環状ケトン類の調製. 2.不斉結晶場としてTADDOL型ホスト分子を用いることで,α位でのエピメリ化平衡を利用するジ置換ケトン類のジアステレオマー制御法を確立した.例えば,ホスト非存在下でのエピメリ化条件では,trans体が優先して得られる(5R)-2-ベンジル-5-メチルシクロヘキサノンに光学活性ホスト分子を存在させることにより,cis-trans比95.5:4.5のケトンが62%得られた.また,他の置換基を有するケトン類についても同様に光学活性体を得ることに成功した. 3.新たな平衡条件として,塩基触媒存在下におけるアルコールのマイケル付加-脱離反応を利用した光学活性3-アルコキシケトン類の調製法を確立した.まず,水-メタノール中,DBU存在下シクロへキセノンに対するメタノールのマイケル反応を試み,平衡の存在を明らかにした.この系にホスト分子を添加して不均一化し,懸濁状態で7日間撹拌した後,ろ別した固体部分から89% eeの(S)-3-メトキシシクロヘキサノンを61%の収率で得ることに成功した. 4.光学活性ホスト分子とゲスト分子との包接錯体の分子認識様式を解明する目的で,包接錯体の単結晶X線結晶構造解析を行った.これにより,ホストの持つ水酸基とゲストのカルボニル酸素原子との間に働く分子間水素結合などの弱い相互作用が重要な役割を演じていることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書上,平成26年度分に記した計画は概ね順調に進行していると考える. その根拠は,1)アルカリ性エピメリ化条件下における光学活性ケトンのジアステレオマー制御法の確立,2)アルコールのエノンに対するマイケル付加-脱離反応の平衡を利用した,光学活性3-アルコキシケトン類の調製,3)単結晶X線結晶構造解析を用いた包接錯体中の分子認識現象の解明が行えたことによる.
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今後の研究の推進方策 |
今回確立されたα位に置換基を持つ環状ケトン類の平衡下におけるジアステレオ制御法の適用範囲を広げるため,種々のケトン類(例えば,置換様式の違い,環の員数,鎖状ケトン類など)に本手法を適用したい.また,アルコールのマイケル付加-脱離反応の平衡系から光学活性な3-アルコキシケトン類を調製できたことから,新たに置換基を導入した他のエノン類にも適用し,ジアステレオ制御法にも拡大したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は研究遂行の初年度であり,初期の基質合成が一部しか行えなかった.また,平衡系を組み立てる基礎的な反応(ケトンα位のエピメリ化,メタノールのエノンへのマイケル付加-脱離反応)の確立に時間を費やしたため,あまり多くの試薬を必要としなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
物質供給を考えた場合,光学活性体を含む数多くの試薬及びガラス器具が必要となる.これにかかる費用が必要となる.また,調製したケトン類の純度の測定および,本手法により得られたケトン類のジアステレオ及びエナンチオ選択性,すなわち反応の活性評価を行うのに必要となる光学活性カラムの購入に充てたい. さらに,本年度の成果を広く公開するために,英語論文校閲,論文投稿にかかる経費,学会発表費として使用する.
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