熱力学的な平衡反応系では,通常,いくつもの化合物が混合物として存在することになる.この中から,目的の化合物のみを取り出すのは,非常に煩雑な作業となる.そこで,平衡複雑系において,不斉結晶場での分子認識現象を利用する新たな方法論を開発し,光学活性化合物の供給法の確率に着手した.本年度の成果は以下のとおりである. 1.これまでに確立してきたデラセミ化法において,5員環ケトン類では効率的な方法にはなっていなかった.そこで,ゲストの溶媒に対する溶解度と回収率,光学純度の関係を調べた.その結果,側鎖にエーテル酸素をもつケトンに対しては,ホスト分子の不斉分子認識力が向上し,最終的にほぼ純粋なケトンを回収することができた(89%,97%ee) 2.α位でのエピメリ化平衡を利用するジ置換ケトン類のジアステレオマー制御法を確立した.例えば,ホスト非存在下でのエピメリ化条件では,cis体が優先(cis-trans=98.5:1.5)して得られる(4R)-2-(4-メチルベンジル)-4-メチルシクロペンタノンに光学活性ホスト分子を存在させることにより,cis-trans比3:97のケトンが96%得られた.また,他の置換基を有するケトン類についても同様に光学活性体を得ることに成功した. 3.光学活性ホスト分子とゲスト分子との包接錯体の単結晶X線結晶構造解析を行った.これにより,ホストの持つ水酸基とゲストのカルボニル酸素原子との間に働く分子間水素結合などの弱い相互作用が重要な役割を演じていることがわかった. また,本研究期間内には,α位に置換基を有するケトン類(ゲスト分子)および新規ホスト分子の調製を合わせて行った.また,他の平衡系として塩基触媒存在下におけるアルコールのマイケル付加-脱離反応を利用した光学活性α-置換-3-アルコキシケトン類の調製法を確立した.
|