研究課題
本申請は、さまざまな新規ポルフィリン鉄錯体をミオグロビンに組み込んで、今まで顧みられなかったミオグロビンを、人工酸素運搬物質に変える試みを行う内容である。平成26年度までに、天然ポルフィリンの2,4位を化学修飾したメソポルフィリンやデューテロポルフィリンを合成した。さらにヘムの中心金属を鉄からコバルトに変換した分子も合成した。これらの新規金属ポルフィリンを組み込んだ再構成ミオグロビンの合成法を確立して、平成27年度にはその物性を分光学および機能測定から詳細に検討した。その結果、再構成した新規ミオグロビンの極端に高い酸素親和性が予想通りに低下して、ミオグロビンが人工酸素運搬体素材となりうる可能性が見えてきた。平成28年度は、上記の実績にもとづき、これらを生理的なヘモグロビンに近い物質に変換する研究を行った。ヘモグロビンは血液内の酸素運搬物質であるが、赤血球膜につつまれて存在する。この状況を人工ミオグロビンで真似るために、有機ナノチューブとよばれる脂質からなる円筒構造中にミオグロビンを入れ実験を試みた。有機ナノチューブの素材として、グリシルグリシンまたはブドウ糖を末端にもつ長鎖アルキル分子の合成に成功した。これらの素材をチューブ型構造体に変換することを試みたところ、予想どおりの構造体が得られていることを、電子顕微鏡観察から確認できた。しかし有機ナノチューブの溶解性はきわめて低いことが判明した。再構成ミオグロビンと有機ナノチューブをpH 7の緩衝液中で長時間撹拌したが、有機ナノチューブへのミオグロビン封入率は低く、生理食塩水で洗浄後のナノチューブはかすかに赤く着色した。この試料を用いてマウスに投与する実験を、共同実験者の東海大学医学部の川口章教授のもとで行った。
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