研究課題/領域番号 |
26460032
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
鈴木 紀行 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (10376379)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光化学反応 / caged化合物 / がん / 虚血 |
研究実績の概要 |
Caged化合物とは、光分解性保護基によって生理活性化合物を保護することでその生理活性を失わせた化合物をさす。このcaged化合物は、目的の組織や細胞に導入したのち光照射を行うことによって、任意の時間・空間内に元の生理活性物質を遊離させる( uncageする)ことができるため、研究のツールとしても臨床薬剤としても有用性が高い。本研究は、「酵素反応による光感受性の変化」と「光反応による生理活性物質の放出」という、2つのスイッチを分子内に有するデュアルスイッチ型caged化合物を開発し、様々な細胞内シグナルを解析するためのツールとして、さらには臨床薬剤としての応用を目指している。 平成27年度には、前年度までにデザイン・合成および光反応性の評価を行った各化合物について細胞毒性の評価を行った。培養細胞には、ヒト肝癌由来細胞株である HepG2 を用いた。その結果、抗がん剤であるシタラビンの薬効を開発した光分解性保護基でマスクした化合物である caged シタラビンは、遊離型のシタラビンに比べ細胞毒性が低いことが明らかとなった。また、この保護基によってマスクされた細胞毒性は、10 分間の光照射によってアンマスクされ、光照射によって細胞毒性を回復させることに成功した。このことから、本研究により開発された光分解性保護基が、生体に適用可能であることが示された。また、この光分解性保護基の有用性をさらに高めるため、スイッチ部分についてもさらなる検討を加え、昨年度までのニトロレダクターゼをターゲットとしたスイッチに加え、活性酸素種などの酸化ストレスや、特異的な酵素活性をターゲットとしたスイッチ部位の導入にも成功した。以上の成果に基づき、本研究によって構築された光分解性保護基のcaged化合物としての応用性、薬剤への適用の可能性など、プラットホームとしての有用性を示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、平成27年度の研究計画においては、前年度までに行ったクロモフォアやスイッチに関する基礎的な検討の結果に基づき、具体的な実験系や疾患などのターゲットを念頭において候補化合物をデザインし、薬剤を保護することで実際に生体に適用可能なデュアルスイッチ型caged化合物の合成・応用を行うことを予定していた。そして、その計画に沿って、抗がん剤であるシタラビンを保護した薬剤を合成し、培養細胞における細胞毒性の検討を行った。その結果、本薬剤は、保護基によって水酸基が保護された状態ではがん細胞に対して細胞毒性を示さず、光照射によってがん細胞に選択的に細胞毒性を発現することを示した。また、その細胞毒性は、保護基のない、元のシタラビンの細胞毒性と同等であった。この成果によって、当初の予定通り、この光分解性保護基が生体にも適用可能であることを示すという目的を達成することができた。また、さらにこの光分解性保護基の適用範囲を拡大するために、多くのがん組織で高発現しているγ-グルタミルトランスペプチダーゼの酵素反応によって光反応性を大きく上昇させる薬剤や、同様にがん組織において誘導されている酸化ストレスに応答して活性化されるcaged化合物など、様々な薬剤の開発にも成功した。以上の理由で、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、前年度までに行った研究成果に基づき具体的な実験系や疾患などのターゲットを設定し、当研究において開発した薬剤を適用することで、このデュアルスイッチ型caged化合物という概念が実際に臨床薬剤として、また研究ツールとして応用可能であるということを示すことを最も重要な目標に定める。具体的な例としては、がん組織の低酸素環境や、がんに高発現しているペプチダーゼ、酸化ストレスによって活性化されるcaged化合物を用い検討を行う。培養細胞レベルの検討はすでに終えているため、平成28年度にはがんを播種した実験動物を用い、実際に選択的な治療が可能であるかを検討していく。 また、この光分解性保護基に残された要改善点として、クロモフォアの吸収波長が比較的短波長であるという点が挙げられる。短波長の紫外光は、エネルギーが高く光反応には有利であるが、生体内の様々な分子により吸収されるため生体透過性が低いこと、細胞や生体組織に対しそれ自身が光毒性を示すことなど、問題が多い。そこで平成28年度には、この光分解性保護基のクロモフォア部分の構造を見直し、より長波長の光によって脱保護されるよう構造修飾を行うことを予定している。このことにより、紫外光の照射による予期せぬ光反応や細胞毒性が大幅に抑制され、より適用範囲が拡大されることが期待される。 さらに平成28年度には、本研究のまとめとして、本研究において開発された様々な光分解性保護基の物理化学的なパラメータを詳細に測定していくことを予定している。今までは、この光分解性保護基のスイッチ部位の化学的・生化学的な反応性や、光照射による脱保護反応の反応速度、反応収率などを主たるパラメータとして評価してきた。しかしながら、本化合物を様々な光学系で応用することを考慮し、光反応の光量子収率など、物理化学的なパラメータを取得する。
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