Caged化合物とは、光分解性保護基によって生理活性化合物を保護することでその生理活性を失わせた化合物をさす。このcaged化合物は、目的の組織や細胞に導入したのち光照射を行うことによって、任意の時間・空間内に元の生理活性物質を遊離させる( uncageする)ことができるため、研究のツールとしても臨床薬剤としても有用性が高い。本研究は、「酵素反応による光感受性の変化」と「光反応による生理活性物質の放出」という、2つのスイッチを分子内に有するデュアルスイッチ型caged化合物を開発し、様々な細胞内シグナルを解析するためのツールとして、さらには臨床薬剤としての応用を目指している。 前年度までに、虚血部位で活性化されるもの、活性酸素や特異的な酵素反応で活性化されるものなど、様々なスイッチをこのcaged化合物に組み込むことが可能であることを示してきたが、同時にこの光分解性保護基に残された要改善点として、クロモフォアの吸収波長が比較的短波長であるという点が浮かび上がってきた。短波長の紫外光は、エネルギーが高く光反応には有利であるが、生体内の様々な分子により吸収されるため生体透過性が低いこと、細胞や生体組織に対しそれ自身が光毒性を示すことなど、問題が多い。そこで本年度には、この光分解性保護基のクロモフォア部分の構造を見直し、より長波長の光によって脱保護されるよう構造修飾を行った。このことにより、紫外光の照射による望ましくない副反応や細胞毒性が大幅に抑制された。 さらに本年度には、本研究において開発された様々な光分解性保護基について、光反応の反応速度、反応収率などだけでなく、本化合物を様々な光学系で応用することを考慮し、光反応の光量子収率など、物理化学的なパラメータの検討を行った。
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