研究課題
本年度では、薬物代謝酵素の変異体タンパク質の立体構造および動的性質について、分子動力学 (MD) シミュレーションを用いて検討を行った。薬物代謝酵素の変異体では多くの場合ごく少数の残基(1残基のみのことも多い)のみが変異しているが、その変異がタンパク質全体の動的性質を変化させることがしばしばある。本研究ではシトクロムP450 (CYP) やN-アセチルトランスフェラーゼ2 (NAT2) の変異体についてその動的性質を調査した。その結果、変異から大きく離れた箇所でも動的性質に変化が生じていた。CYPのヘム周辺やNAT2の触媒3残基周辺など、活性部位周辺に変化が生じている場合に加え、他のタンパク質との結合界面と考えられている箇所に揺らぎが生じている場合もあり、変異がタンパク質-タンパク質結合に影響を与えている可能性が示唆された。また、一般的なシミュレーション時間が経過した時点ではきわめて大きな揺らぎを示していた変異体もあり、構造が未だ収束していないのではないかと考えられた。このような変異体では主鎖構造のレベルで立体構造が変化している可能性があり、わずか数残基の変異がタンパク質の構造を根本的に変化させている様子が見てとれた。さらに、野生型に対してタンパク質-リガンド複合体の立体構造を推定し、その構造的特徴を見いだした。いくつかの複合体構造に対するシミュレーションを通じて、相互作用の保存やリガンドと活性中心との位置関係などから、妥当な構造とそうでない構造とをシミュレーションで判別できる可能性が示された。また、CYPには大きなリガンド結合ポケットが存在するが、ドッキングおよびMDシミュレーションを行うことでこの結合ポケットに水分子の進入が確認されており、相互作用の揺らぎに加えて周辺分子の挙動についても十分精査する必要があることがわかった。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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