研究実績の概要 |
ほとんどすべてのβ-ラクタム剤を加水分解する酵素メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を研究対象としており、MBLであるKHM-1のセフェム系β-ラクタム剤に対する高触媒活性の要因について、変異酵素を調製して、Native型KHM-1(Native)と速度論的解析によって比較した。なお、変異のアミノ酸位置は、KHM-1の結晶構造(未公表)から選定した。 KHM-1は、MBLであるIMP-1とのアミノ酸相同性は約59%であるが、KHM-1はIMP-1に比べてセフェム系に対して高い触媒効率を示すことが報告されている。しかし、両結晶構造を比較したが、KHM-1の高触媒効率の要因を特定できるような差は観察できなかった(未公表)。そこでKHM-1の活性中心近傍にあるHis170に着目し、IMP-1では170位はAspであることから、KHM-1のH170D変異酵素(Mutant)を調製した。 報告されたNativeのアンピシリンに対する触媒効率(Km/kcat, 単位:/(M・s))は1.9×10の4乗であり、セフォタキシムでは1.7×10の8乗であったが、Mutantはそれぞれ2.8×10の4乗、8.7×10の5乗であった。これはIMP-1で報告されている触媒効率と同等であった。Mutantの触媒効率が低下した理由は、Km値はあまり変化はないが、kcat値が低下していることが分かった。このことから、KHM-1のHis170は、加水分解機構に影響を与えていることが分かった。 しかしNativeの触媒効率は、私たちの実験ではアンピシリンに対して1.8×10の5乗であり、セフォタキシムでは2.6×10の6乗であった。これは報告されている値とかなり違うことから、酵素精製中においてKHM-1の触媒効率を低下させる要因があると考え、その原因を調べている。
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