研究課題/領域番号 |
26460043
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
東 達也 東京理科大学, 薬学部, 教授 (90272963)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分析科学 / 神経活性ステロイド / 誘導体化試薬 / ESI増強 / 重水素標識 / LC/MS/MS / アンドロゲン / アロプレグナノロン |
研究実績の概要 |
平成26年度は,高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析 (LC/MS/MS) にエレクトロスプレーイオン化増強重水素標識試薬 (EDR),すなわちHMPとD3-HMPを組み合わせ,脳内アンドロゲン [テストステロン (T) 及び5α-ジヒドロテストステロン (DHT)] の新規差解析法及び定量法を開発した.これらの方法を用いて拘束ストレスによる脳内アンドロゲンレベル変動を精査したところ,アロプレグナノロン (AP:GABAA受容体の内因性アロステリックモジュレータ) に代表されるプレグナン系神経活性ステロイドとは大きく異なり,ストレスによる増減がほとんどないことが明らかとなった.一方,開発した方法は脳内APの差解析及び定量にも適用可能である.そこで,selective brain steroidogenic stimulant (SBSS:APの合成促進を介して抗不安・抗うつ作用発現し,抗精神病薬の候補となりうる化合物) 探索における本法の実用性を試験した.ポジティブコントロールとしてフルオキセチン (FLX,選択的セロトニン再取り込み阻害薬),クロザピン (CLZ,非定型抗精神病薬) を,ネガティブコントロールとしてハロペリドール (HLP,統合失調症治療薬),スルピリド (SLP,統合失調症治療薬) を選択し,これらと生理食塩水 (コントロール) をWistar系雄性ラットに腹腔内投与し (各n = 3),60分後に脳を採取した.FLX又はCLZを投与したラットでは,脳内APレベルの有意な上昇が確認できる一方で,HLP,SLP投与群の脳内APレベルは生理食塩水投与群のそれと同等であった.このように開発した方法がSBSS探索に十分な実用性を有することが示された. これらの成果に加えて,平成27年度に実施予定の脳内ビタミンD代謝物分析に向けて,そのEDRを検討した.すなわち,DAPTADとD4-DAPTADを合成し,脳分析に先立って尿中代謝物分析における実用性を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,脳内アンドロゲンのLC/MS/MS分析法 (差解析法及び定量法) を開発することができた.本法は研究課題に掲げた独自のEDRを鍵としており,新規性の高いものである.本法を用いで拘束ストレスによる脳内アンドロゲンレベル変動を解析したところ,ストレスに伴うそれが認められなかった.一方,GABAA受容体の内因性アロステリックモジュレータの中で最も強い活性を示すAPでは,ストレスやFLXなどの薬物投与によって脳内レベルが上昇することが本法で確認でき,その信頼性,感度,実用性が証明された.このように開発した方法は,既存の医薬などからSBSSを見つけ出すという神経活性ステロイド研究領域の重要課題の一つに対して有用なツールとなりうるものであり,うつや不安障害に対する新規治療法開発や適用拡大 (ドラッグリポジショニング) に貢献できるものと期待される. これに加えて,脳内ビタミンD代謝物分析用のEDRを検討した.すなわち,DAPTADとD4-DAPTADを合成し,尿試料ではあるが,差解析や定量における評価を行うことができた.これらの知見は,次年度の研究に大きく役立つものである. 以上を総合し,研究は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
開発した脳内AP定量法を用いて,新規SBSSの探索を行う.まずは既存の抗精神病薬や精神神経科領域で使われる漢方製剤を,その後,対象を抗精神病薬以外の既存薬 (疫学情報や適用外使用情報に基づいて選択),食品やハーブなどに拡大し,本法によりSBSSか否かをスクリーニングする.SBSSが見つかれば,脳内AP量と抗不安作用との相関性について,高架式十字迷路,明暗ボックスなどを用いた行動薬理学的検討を行う. 平成27年度は脳内ビタミンDの分析に本格的に着手する.最近,他研究者によりマウス脳内に循環型ビタミンDである25-ヒドロキシビタミンD3が存在することが報告されたが,夾雑物との分離,検出感度ともに十分ではなく,結果はやや疑わしいものである.そこで,ラットを用いて脳内ビタミンD代謝物の存否を明らかとする.26年度に検討したDAPTADとD4-DAPTADのペアの他,これらのアナログの合成も行い,感度,選択性に優れるEDR-LC/MS/MS法を構築する.脳からビタミンD代謝物が検出されれば,末梢血中濃度と脳内レベルを比較し,脳内ビタミンD代謝物の由来を考察する. さらに,次世代神経活性ステロイドと期待される胆汁酸についても,EDRのデザイン・合成を開始する.また,脳内胆汁酸の分析では,試料からの回収が鍵となるが,適切な蛋白変性法と固相抽出法を開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はおおむね計画通り進み,LC/MS用カラム,合成用試薬,実験器具,実験動物などの消耗品は当初の予定通り購入したが,LC/MS装置の消耗品については,今年度は交換・補充が不要であった.また,成果発表も予定していた学会(日本薬学会年会及び日本医用マススペクトル学会)にて行ったが,これにかかる旅費については,特段の理由はないが,別の予算(大学からの研究費)から支出した.このような理由から,20万円強を次年度に繰り越し,使用することになった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の繰越額については,平成27年度分の助成額と合わせてLC/MS用カラム,合成用試薬,実験器具,実験動物などの消耗品に使用する.ビタミンD関係の実験のみならず,SBSS探索の実験も並行して行うことから,繰越額を主に後者に対して使用する予定である.
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