まず,前年度に引き続き,アロプレグナノロン (GABAA受容体の内因性アロステリックモジュレータ) の合成促進を介して脳機能を制御する化合物,すなわちselective brain steroidogenic stimulant (SBSS) の探索を行った.前年度までに確立したEDR (HMP及びD3-HMP) とLC/MS/MSを基盤とする差解析法及び定量法を用いて種々の向精神薬をスクリーニングし,新たにミルタザピンをSBSSとして見出した.ミルタザピンは,前年度までにSBSSと確認されたクロザピン,オランザピン (いずれも非定型抗精神病薬) やミアンセリン (四環系抗うつ薬) と類似の化学構造 (ジベンゾアゼピン) を有しており,構造活性相関の点からも興味深い知見を得た. また,脳内ビタミンD代謝物については,前年度にラット脳内には実質的に25-ヒドロキシビタミンD3 [25(OH)D3] が存在しないことを報告したが,より高感度をもたらす試薬が,体液又は組織中ビタミンD代謝物濃度と精神疾患の関係を解明するためのツールとなるものと考え,新規試薬,DEAPTAD,QTADなどとこれらを用いる25(OH)D3定量法を開発した. さらに,脳内胆汁酸用EDRとしてDAPPZとその重水素アナログD4-DAPPZを用い,ラット脳内コール酸,ケノデオキシコール酸 (CDCA),デオキシコール酸の同時定量法を開発した.本法を用いて,上記胆汁酸の脳内レベル,これらの大部分が末梢由来であること,脳内への輸送はその脂溶性に依存した単純拡散である可能性が高いことなどを明らかとした.脳腱黄色腫症 (知能低下や言語障害が現れる) の治療にCDCAが有効であることが知られており,胆汁酸の神経活性ステロイドとして役割を論じる上で重要な知見が得られた.
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