研究課題
本研究において、様々な起電性輸送担体をモデルトランスポーターとして用い、輸送サイクルにおける分子弁の機能解明を目指して研究を進めている。先ず、ヒトH+/オリゴペプチド共輸送担体 (PEPT) における、第二膜貫通領域 (TDM2) に存在する輸送活性中心His57と水素結合ネットワークを介して相互作用し,輸送活性調節に関与するアミノ酸残基Ser302が形成する分子弁が基質輸送にどの様に関わるか、熱力学的に検討をおこなった。PEPT大量発現細胞HeLa細胞から膜ベシクルを調製し、等温滴定型熱量計(ITC)を用いて、基質結合に伴う熱の出入りおよび、駆動力であるH+の構造変化に伴う熱の出入りの測定を行った。この実験系では、PEPTの総タンパク量が少なく、信頼性のある熱量変化は観察されなかった。現在は、研究協力者に無細胞発現系によるPEPTの大量合成(mgスケール)を依頼し、熱量変化が十分得られる実験系を用いて、PEPTがどの様に輸送駆動力のH+電気化学ポテンシャルを分子弁に伝え基質を移動させているかを、熱力学的解明を試みている。一方、Na+/モノカルボン酸共輸送担体 (SMCT) の輸送分子機構解明を目的として、様々な基質の基質輸送―構造活性相関 (QSAR) を行った。その結果、SMCTはモノカルボン酸のみならず、アミノ基等を有する双性イオン化合物、即ち、バルキーな構造を有するアミノ酸誘導体も認識し輸送する能力を有していることを明らにした。これらアミノ酸誘導体は、L-systemによって認識されるアミノ酸に属する。典型的な基質、モノカルボン酸化合物と同様、Na+:基質=1:2 の化学量論比で輸送することが明らかとなった。更に、速度論的解析により、そのアミノ酸誘導体は、駆動力であるNa+結合部位近傍に結合することも明らかとなった。
3: やや遅れている
PEPT大量発現細胞HeLa細胞から膜ベシクルを用いて、基質輸送に伴う熱量変化を試みたが、膜タンパク質の絶対量が極めて少なく、信頼性のある熱量変化は観察されなかった。この実験系の再考が必要となった。一方、SMCTにおいては、アミノ酸輸送の速度論的解析により、基質認識機構、基質結合部位の推定に成功した。SMCTにおける輸送機構の解明はおおむね順調に進んでいる。
最終年度では、熱量測定に十分なPEPTタンパク質の調製を行う。先ず、mgスケールの調製が可能な無細胞合成系により、PEPTタンパク質の調製を行う。このサンプルを用いて、①PEPTがどの様に輸送駆動力のH+電気化学ポテンシャルを分子弁に伝え、基質を移動させているか②脂溶性ジペプチドアナログに光ラベル化剤を付加したプローブを用いて、分子弁に関与するアミノ酸残基を同定する。③これらアミノ酸残基の変異体をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、基質輸送の速度論的解析を行い、基質輸送に伴った協奏的構造変化に関与するアミノ酸残基を同定し、分子弁モデルを更に発展させる。この速度論的解析のために、時間分解能を高くした測定装置の改良を試みる。一方、速度論的解析により、そのアミノ酸誘導体は、駆動力であるNa+の結合部位近傍に結合することが推定された。今後、バクテリアにおける類似輸送担体の結晶構造に基づいて、基質およびNa+結合部位のホモロジーモデリングを行う。これまで明らかにされた速度論的性質と一致しているかを検討し、モデルの妥当性を検討する。更に、アミノ酸誘導体存在下でSMCTがNa+チャネルとして振る舞う詳細な機構を明らかにし、SMCTにおける分子弁の実体解明を行う。
時間分解能の高い測定系を構築する予定であったが、それを最終年度に持ち越したため。
研究分担者と情報交換を密にして、時間分解能の高い測定系を構築する。測定装置改良のために、部品を購入する。
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