2016年度は,研究実施計画に基づいて得られた成果について,関連技術も含めて査読付きの学術誌に5報を投稿した.また,国内外において,招待講演2件を含む合計9件の学会発表を行った.ナノスポット法の基盤となる技術の開発は完了し,微小容量の試料溶液をスポットするガラス表面の疎水化,試料溶液に用いる溶媒,試料の濃度およびスポットする容量の設定,超微量のオートディスペンサー装置を用いた試料スポッティングの自動化,代表的な医薬品原薬および一般的に用いられるコフォーマー化合物を用いた場合の顕微ラマン分光測定による検出と特異性の評価等について結果をまとめ,投稿した論文が英国化学会の学術誌に掲載された.顕微ラマン分光測定に関しては,ラマン分光法における通常領域に加え,およそ100cm-1以下の低波数領域についても試行した.その結果,ハードウェアの使用に関する制限から本法に十分な検証までは行えなかったものの,カルバマゼピンをモデル薬物とした系において将来的に有望な結果を見出すことができた.また,結晶形の判別に対する低波数領域の特異性および有用性に関しては,代表的な医薬品原薬および汎用される添加剤の結晶多形に関して検討し,投稿した論文が国際誌に掲載された.表面増強ラマン効果についても検討したところ,試料と金コロイドの混液をスポットすることにより,一部の試料でラマン信号の増強が認められた.現時点では結晶性の向上によるものと区別できないが,今後の検討が期待できる結果が得られた.医薬品のコクリスタルは経口製剤における原薬の新たな結晶形態として期待されており,本研究を通じて,そのスクリーニング手法および製剤学的な有用性,ならびに両者の実用性を明らかとすることができた.
|