研究課題/領域番号 |
26460050
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
浅井 大輔 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (10423485)
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研究分担者 |
福田 靖 国立感染症研究所, その他部局等, 研究員 (80270651)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エラスチン / 生体材料 / 注射ゲル |
研究実績の概要 |
平成26年度は、既存の発現プラスミドを用いて動物実験用に人工エラスチンポリペプチドを大量生産し、破傷風トキソイドの徐放化薬物担体として精製した。これらを破傷風トキソイドと共にマウスに皮下注射して抗原デポを留置し、特異的抗体産生能を評価した。 1、人工エラスチンポリペプチドの組成の検討:人工エラスチンポリペプチドの分子量を一定に固定し、その組成を変えたバリアントを調製した。これらを破傷風トキソイドと混合し、抗原デポをマウスに局所留置して抗体価をモニターした。その結果、抗体産生および抗体価持続の両方について、ゲル化抗原に有意な免疫応答が認められた。一方、人工エラスチンポリペプチドの組成の違いに関しては著明な差は認められなかった。 2、人工エラスチンポリペプチドの鎖長の検討:人工エラスチンポリペプチドの組成を一定にし、その鎖長(分子量)を変えたバリアントを調製した。破傷風トキソイドと混和して抗原デポをマウスに局所留置し、抗体価をモニターした。その結果、より長鎖のバリアントに高い免疫応答が認められた。しかしながら、長鎖の抗原デポは生体内で非常に高い安定性を示し、生分解による抗原の徐放には適さない可能性が示唆された。 3、至適なトキソイド抗原量の検討:含有させるトキソイド量を3Logのオーダーで変化させた抗原デポをマウスに局所留置して抗体価をモニターし、マウスが防御抗体価(0.1IU/mL)を獲得するために必要なトキソイド量を決定した。 4、単回および複数回投与後の特異的抗体価推移の評価:破傷風トキソイドのみの3回投与とゲル化トキソイドの単回投与を比較した。破傷風トキソイドは投与剤形が単純溶液であっても、その高い免疫原性のため効率よく有意な抗体価を誘導した。複数回投与によるそのブースター効果は非常に高く、デポ剤とはいうものの単回投与との比較には適さない抗原であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終的な目標は、研究申請者が見出した新規生体材料である人工エラスチンを用いて、ワクチンアジュバントの作用メカニズムの中の1つの機序であると考えられている徐放効果の有無・寄与の程度を明らかにすることにある。初年度である平成26年度に、破傷風トキソイドをゲル化させることにより得られる具体的なアドバンテージに確証が得られたことは非常に大きい。また、我々の構築した一連のアッセイ系により、マウスが防御抗体価を得るために必要な薬量の詳細を決定でき、今後調製する人工エラスチンバリアントを評価する見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
人工エラスチンゲルは試験管内では自発的に溶液に戻る物性をもつ。しかしながら、バリアントによっては生体内に留置するとゲルのまま残存する、すなわち、分解されにくいポリペプチドがあることが判明し、この情報を次年度以降にフィードバックする。この現象は動物実験を実施して初めて明らかとなったものであり、フィードバックして新たな人工エラスチンの分子設計に活かせる因子の実験的発見があろうとの予想も当初の計画どおりである。デポが生分解されなければ抗原はデポ内に貯留されたままであり、免疫系に晒されることはなく、結果として免疫応答が弱くなってしまうと予想される。今後は生分解性のコントロールに必要な因子を考慮しながら人工エラスチンを設計し、本年度に構築した一連のアッセイ系により免疫応答を解析予定である。また、繊維芽細胞と接触・混合させることによる人工エラスチンの物性変化に関しても調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年3月末に研究分担者の所属機関にて新たな動物実験を計画しておりマウス購入および旅費に充てる予定であったが、3月中旬に得られた解析結果から、新たにポリペプチド材料を調製する必要性が生じ、材料の調製時間を考慮すると当該実験が3月中には間に合わず、次年度に持ち越しとした。このために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度早々の動物実験のために新規ポリペプチド材料を量的に生産し、これに掛かる材料費およびマウスの購入に16,216円全額を充当して使用する。
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