研究課題
平成27年度は、昨年度得られた結果をフィードバックすることにより新たな人工エラスチンポリペプチド数種類を、合理的に設計・調製し、(1)人工エラスチンポリペプチドの疎水性度および(2)鎖長、の2つのパラメータがどのように抗体産生に影響を及ぼすかを詳細に調べた。この際、昨年度に新たな課題としてあがっていた(3)生分解性との関連性について、皮下投与後のゲルを安定化させるために冷却操作を取り入れる等、投与方法に関する検討も併せて行った。また、人工エラスチンポリペプチドの相転移温度とレオロジー特性が、この改変によってどのように変化するかに関しても調べた。その結果、 (i)人工エラスチンの組成はより疎水性の方が、(ii) 鎖長はより長い方が、(iii) 投与部位を冷却してゲルを安定化させる方が、抗体の産生・抗体価の持続に有利であることが明らかとなった。一方で、高い力価を誘導する人工エラスチンゲルに求められる分子要因を追い求め、「より疎水性・より長鎖」に改変した結果、投与5か月後にもかかわらず皮下に残存してしまうことが判明した。これは、この戦術が人工エラスチンゲルの長所の1つである生分解特性を犠牲にしてしまうことを意味するとともに、ゲル中のトキソイドが完全に放出されておらず、十分量のトキソイドにより免疫系が刺激されていない可能性も考えられる。人工エラスチンポリペプチドの「より疎水性・より長鎖」への改変により、相転移温度を下げ動的粘弾性を上げるという、これまでの経験則どおりの物性変化が現れた。これらのin vitro/in vivoでの結果は、本研究課題におけるデポ高機能化のための新たな人工エラスチンポリペプチドの分子設計に役立つ、きわめて大きな発見として位置付けられた。
2: おおむね順調に進展している
研究申請者が見出した人工エラスチンを用いてワクチンアジュバントの作用メカニズムの1つの機序である徐放効果の有無・寄与の程度を明らかとすることが、本研究課題の最終的な目標である。初年度に得られた結果をフィードバックすることにより、初年度に見えていた現象とその傾向を論理的に説明することが可能となり、より最適化するための分子設計法および投与方法に関する方策が得られたことは大きなアドバンテージである。
人工エラスチンゲル内に貯留する薬物を放出させるパラメータに関して、これまでにエラスチンの疎水性度および鎖長について調べ、より優位な抗体価を得るための分子情報を得てきた。次年度は、薬物放出を司るもう1つのパラメータであるゲルの網目サイズについての影響をin vitroおよびin vivoの両方から検討する。また、投与局所における自然免疫リガンドとの同時刺激効果が特異的抗体産生にどのような影響を及ぼすのかを、抗体価の大小・維持期間に着目して解析予定である。
H28年3月末に研究分担者の所属機関にて新たな動物実験を計画しており、そのための試薬およびマウスの購入および旅費に充てる予定であったが、3月上旬に実施した実験の解析結果から新たなポリペプチド設計・調製が必要との判断になり、材料調製にかかる時間を考慮すると当該実験が3月中には間に合わず、次年度に持ち越しとなった。このために次年度使用額が生じた。
次年度早々の動物実験にむけ、新規ポリペプチドの調製およびマウスの購入に42,729円の全額を充当する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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