環状オリゴ糖であるシクロデキストリンは分子内に疎水性空洞を有するため、様々な医薬品を空洞内に取り込み、包接化合物を形成することが知られている。製剤学分野では、シクロデキストリンの包接機能を利用した各種製剤特性(溶解性、安定性、苦みの軽減、油性薬物の固形化など)の改善が活発に行われている。例えば、閉鎖性血栓血管炎に伴う潰瘍や疼痛などの虚血性症状の改善に臨床使用されているプロスタグランジンE1 (PGE1) は、その溶解性や安定性を改善するため、a-シクロデキストリン複合体の凍結乾燥製剤として製剤化されるとともに、PTP 包装により市場へ提供されている。しかしながら、最近では服用性を向上し、飲み忘れやの飲み誤りを防止するため、複数の内服用固形製剤が処方された場合、それらの一包化が広く行われている。PGE1 の一包化を企図する場合、その安定性を更に向上させる必要がある。固体状態における PGE1/シクロデキストリン複合体の安定性は、薬物あるいはシクロデキストリンの結晶化が大きく影響することが考えられる。そこで本研究では、a- あるいは b-シクロデキストリン複合体、さらに a-シクロデキストリンと b-シクロデキストリンを併用した場合の PGE1 の安定性とシクロデキストリンの結晶化挙動を追跡し、安定性と結晶化の関係を明らかにすることを目的とした。
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