研究課題/領域番号 |
26460055
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
安達 基泰 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, グループリーダー (60293958)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HIVプロテアーゼ / 薬剤耐性 / 不活性化酵素 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
薬剤耐性ウイルスの出現は、現代の重要な医療問題の一つである。本研究では、後天性免疫不全症候群AIDS治療のための創薬標的タンパク質となっているHIVプロテアーゼ(HIVPR)に着目している。A17-HIVPRは、薬剤耐性を有するHIVPRの一つで、阻害剤[Ritonavir (RTV), Lopinavir (LPV)]に対して耐性を有する。薬剤耐性HIVPRは、野生型と比較して、酵素活性を保持したまま阻害剤に対して親和性を減少させるという難解な特徴をもつ。薬剤耐性の発現機構を解明することは、薬剤耐性ウイルスに対して強力な薬の創出につながるものと期待できる。 H26年度は、基質との相互作用解析を実現するために、触媒基の一つを非解離性のAsn残基に置換し不活性化した酵素を設計し、不活性型のHIVPRの調製を実施後、阻害剤複合体の高分解能X線結晶構造解析に成功した。 H27年度(本年度)は、薬剤耐性の発現機構を解明するために鍵となる、HIVPRと基質との複合体の構造解析をすすめた。(1) HIVPRをコードする遺伝子2つをリンカーで繋げることにより2量体を一本鎖化した試料を利用した。 (2) 以前行った中性子結晶構造解析の結果から、基質複合体解析にはプロトン化を観測したAsp25のみをAsnに置換した変異体を作製した。(3) 基質となるペプチドとリンカーの長さを調整したHIVPRを複数調製して複合体結晶の作製を試みた。(4) 結晶化実験時において、温度を4℃に下げることとタンパク質濃度を高く設定することで、結晶化の核形成の速度を早め、結晶析出までの基質の分解をできるだけ抑えた。以上の4つの創意工夫をすることで、HIVPRと基質との複合体結晶の作製に成功し、1.5Åの高分解能X線結晶構造解析に世界で始めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は、昨年度(H26年度)に、不活性型HIVPR (WT-scHIVPR(D25N))の調製と、試料と阻害剤RTVとの複合体の1.2Åの高分解能X線結晶構造解析に成功したことを受けて、薬剤耐性の発現機構を解明するために鍵となる不活性型HIVPRと基質との複合体の構造解析をすすめた。その結果、HIVPRと基質との複合体結晶の作製に成功し、1.5Åの高分解能X線結晶構造解析に世界で始めて成功した。高分解能X線結晶構造解析に成功したことで、中性子結晶構造解析の実現に向けての大きく進展した。以上の進捗状況を考えて、本年度の達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度においては、構造解析に加え、物理化学的を進めるため、滴定型等温カロリメトリー(ITC)を用いて薬剤耐性型HIVPRの熱力学的に解析を行う。測定条件は、予備検討によってすでに決定しており、阻害剤の親和力(Kd)が非常に強い場合には、親和力の弱いPepstatinAの存在下で競合させ測定する。さらに不活性型酵素であるWT-scHIVPR(D25N)およびA17-scHIVPR(D25N)を用いて、基質に対する親和力(Kd)とΔH、ΔCp値を求め、野生型と薬剤耐性型の熱力学的パラメーターを比較する。さらにH28年度(最終年度)は、不活性型酵素と基質複合体の中性子結晶構造解析を実施するための大型結晶の取得をすすめる。
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