研究実績の概要 |
薬剤耐性ウイルスの出現は、現代の重要な医療問題の一つである。本研究では、後天性免疫不全症候群AIDS治療のための創薬標的タンパク質となっているHIVプロテアーゼ(HIVPR)に着目している。A17-HIVPRは、薬剤耐性を有するHIVPRの一つで、阻害剤[Ritonavir (RTV), Lopinavir (LPV)]に対して耐性を有する。薬剤耐性HIVPRは、野生型と比較して、酵素活性を保持したまま阻害剤に対して親和性を減少させるという難解な特徴をもつ。薬剤耐性の発現機構を解明することは、薬剤耐性ウイルスに対して強力な薬の創出につながるものと期待できる。 H26年度は、基質との相互作用解析を実現するために、触媒基の一つを非解離性のAsn残基に置換した不活性化した酵素を設計し、不活性型のHIVPRの調製を実施後、阻害剤複合体の高分解能X線結晶構造解析に成功した。 H27年度は、薬剤耐性の発現機構を解明するために鍵となる、HIVPRと基質との複合体の構造解析をすすめた。 H28年度(本年度)は、薬剤耐性の発現機構の解明に向けて、水素原子を観測するために、HIVPRと阻害剤複合体の中性子回折データの収集をすすめた。(1) 野生型HIVPRおよび薬剤耐性A17-HIVPRと阻害剤RTVとの複合体の大型結晶を作製後、ドイツ研究用原子炉でのビームタイムを取得し、分解能2.1および1.5Åの中性子回折データを収集した。このことにより、水素原子を含めた立体構造解析が可能となった。また、滴定型等温カロリメトリー(ITC)を用いて薬剤耐性型HIVPRの熱力学的解析を実施した。
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