研究課題/領域番号 |
26460056
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
中西 郁夫 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 主任研究員 (70356137)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線防護剤 / 抗酸化物質 / 放射線がん治療 / 活性酸素種 / ラジカル / pH / 有機化学 / レドックス化学 |
研究実績の概要 |
放射線がん治療は、生体内の水に放射線が照射されることによって発生する活性酸素種やフリーラジカルで、がん細胞を殺傷する。しかし、腫瘍組織周辺の正常細胞も活性酸素種やフリーラジカルの影響を受けて副作用が起こる。一方、がん細胞は正常細胞よりもわずかにpHが低いことが知られている。そこで本研究では、正常細胞でのみ活性酸素種やフリーラジカルを消去し、放射線がん治療を阻害しないようなpH応答性抗酸化物質の開発を試みた。 抗酸化物質の活性評価には、活性酸素種のモデルとして頻用されている2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH)ラジカルを用いた。しかし、DPPHラジカルは水に不溶なため、共溶媒としてエタノールを加えると、pHを制御するための緩衝塩が析出した。そこで、医薬品や化粧品の水溶化に用いられているβ-シクロデキストリン(β-CD)を用い、DPPHラジカルの水溶化を試みた。DPPHラジカルとβ-CDの固体混合物に熱湯を加え、室温まで冷却した後、メンブレンフィルターでろ過すると、DPPHラジカルに特徴的な紫色の水溶液を得ることができ、DPPHラジカルを水溶化することに初めて成功した。0.1 Mの緩衝液を用いてDPPHラジカル水溶液を調整しても緩衝塩の析出は起こらず、この水溶化DPPHラジカルを用いて、pHを制御しながら水溶性抗酸化物質の活性評価が可能となった。 実際、水溶化DPPHラジカルは、アスコルビン酸(ビタミンC)や水溶性ビタミンE誘導体であるTroloxなどの水溶性抗酸化物質により効率良く消去され、DPPHラジカルに由来する吸光度の経時変化から反応速度定数を決定することができた。また、TroloxのDPPHラジカル消去活性は、pH 5.5よりもpH 7.4の方が顕著に高いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
抗酸化活性評価に用いる2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH)ラジカルをエタノール-水(緩衝液)混合溶媒で溶かす際に、緩衝塩が析出するという問題が起こった。しかし、これを解決するため、医薬品や化粧品の水溶化に用いられているβ-シクロデキストリン(β-CD)を用いてDPPHラジカルの水溶化に世界で初めて成功し、その成果は世界的にも著名な論文誌(Chemical Communications誌)に掲載を採択された(掲載確定が平成27年4月であったため、平成27年度の成果として報告予定)。また、水溶化DPPHラジカルを用いてTroloxの活性評価を行った成果は、ビタミンE研究会において奨励賞を受賞した。 以上のような結果から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で独自に得られた水溶化DPPHラジカルを用い、種々の抗酸化物質のDPPHラジカル消去活性に対するpHの効果について検討する。特に、ビタミンEの活性中心である6-クロマノールに、種々の電子供与性または電子求引性置換基を導入した6-クロマノールを合成し、フェノール性OH基のpKa値とDPPHラジカル消去活性との相関について検討する。pH 7.4で高い活性を示すのに対し、pH 6.8~7.2では活性を示さないものがあれば、放射線から正常細胞を選択的に防護できる放射線防護剤として応用できる可能性がある。 また、(+)-カテキンに種々のアミノ基を導入した化合物についても同様の検討を行う。pH 7.4付近ではアミノ基とフェノール性OH基との水素結合でDPPHラジカル消去活性が飛躍的に向上し、pH 6.8~7.2ではアミノ基のプロトン化により水素結合が起こらなくなるような化合物の開発を行う。 一方、β-シクロデキストリン(β-CD)は他のシクロデキストリンに比べて低いため、DPPHラジカルの包接効率が悪いという問題点がある。そこで、β-CDの代わりに水溶性を向上させた2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン(DM-β-CD)を用い、水溶化DPPHラジカルの濃度の向上を検討する。 以上のようにして得られた成果を国内外の学会にて発表するとともに、原著論文として報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者である和氣司氏(千葉大学大学院医学薬学府博士課程学生)に、神戸で開催された日本薬学会第135年会でポスター発表を行ってもらうため出張を依頼した。その際、和氣氏がランチョンセミナーに出席したため、日当が減額され、予想に反して2,300円の繰越し金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬類などの購入に充てる予定である。
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