研究課題
前年度に引き続き、β-シクロデキストリンで水溶化した2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカルを用い、水溶性抗酸化物質のDPPHラジカル消去速度に対するpHの効果について検討を行った。特に、生体内の代表的な水溶性抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)のDPPHラジカル消去速度は、pHの上昇とともに増加した。また、この反応の擬一次速度定数はGSHの濃度の増加にともなって増加し、やがて一定値に達した。さらに、水の代わりに重水を用いてリン酸緩衝液を調製し、それを溶媒として用いても速度論的同位体効果は観測されなかった。以上の結果から、GSHによるDPPHラジカルの消去反応は、SH基の脱プロトン化によって生成したチオレートアニオンからDPPHラジカルへの電子移動反応を律速として進行することが明らかとなった。一方、本研究でDPPHラジカルの消去活性評価を行ったいくつかの抗酸化物質について、ラットまたはマウスの胸腺細胞を用いて放射線防護活性の評価を行った。その結果、得られた放射線防護活性とDPPHラジカル消去活性の必ずしも相関せず、抗酸化物質の膜透過性(脂溶性)など、他のパラメーターも併せて総合的に評価する必要性が示唆された。水溶化DPPHラジカルに関しては、サイクリックボルタンメトリーにより水中における酸化還元挙動を初めて明らかにすることができた。また、水中でDPPHラジカルにX線や炭素イオン線などの放射線を照射すると、線量依存的にDPPHラジカルによる527 nmの吸収が減少することから、放射線の線量計として応用できる可能性も示唆された。以上のように、本研究により抗酸化物質の活性に及ぼすpHの影響を水中でDPPHラジカルを用いることにより評価することが可能になり、正常細胞とがん細胞のわずかなpHの差を利用した正常細胞選択的放射線防護剤開発への道を拓くことができた。
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