研究課題
共結晶体内分子の電子密度分布解析を基盤とした医薬品の物性制御及び予測法の構築のため、カフェイン共結晶体群を対象として本研究を遂行した。具体的には、カフェイン共結晶体を構築し、精密構造解析により定量化した分子の結合性、極性から物性(溶解度、熱・湿度安定性)を制御している分子間相互作用を解明することを試みた。得られた新規カフェイン共結晶体の物性については、熱分析及び熱・湿度安定性や溶解性などの測定を行った。さらに合成した共結晶体は、SPring-8を用いたX線回折データから精密構造解析を行った。実験的に直接観察した電子密度分布、静電ポテンシャル分布、電荷密度分布から分子内の結合性、電子分極及び分子の極性、分子間相互作用を定量化し、物性(溶解度、熱・湿度安定性)との相関関係の解明を検討した。これまでに本研究では、シュウ酸、マロン酸とカフェインにより構築される共結晶体の精密構造解析により、電子密度分布及び静電ポテンシャルを明らかにしてきた。本年度は、より炭素鎖が長いジカルボン酸HOOC-(CH2)n-COOHとカフェインにより共結晶体の構築を試みた。炭素鎖nが5以上では、共結晶体の単結晶化が困難となったため、粉末試料の放射光X線回折データから結晶構造解析を行った。今後、系統的な分子間結合部位を有するカフェイン共結晶体群の定量的な知見に基づき分子間相互作用を数値化し、共結晶体内分子の電子密度分布解析を基盤とした医薬品の物性可視化法を確立する。最終的には、目標である医薬品共結晶体の物性予測制御法の構築のため、精密構造解析の結果に基づいた分子の結合性、電子分極及び分子の極性、分子間相互作用から、分散(ファンデルワールス力)、分極(ダイポールモーメント)、水素結合(ドナー・アクセプター性)を抽出し、新規共結晶医薬品の分子設計・合成への応用、安定性及び溶解性などの物性の予測制御を実証する。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、既知のカフェイン共結晶体の精密構造解析だけでなく、新規なカフェイン共結晶体の合成にも成功した。具体的には、本年度は、より炭素鎖が長いジカルボン酸HOOC-(CH2)n-COOHとカフェインにより共結晶体の構築を試みた。炭素鎖nが5以上の共結晶体では、単結晶化が困難となったため、粉末試料の放射光X線回折データから結晶構造解析を行った。
共結晶体中の電子密度分布、静電ポテンシャル分布、電荷密度分布の物性可視化法は、実際の分子の結合性、電子分極及び分子の極性、分子間相互作用を直接観察することを意味する。物性値を支配する構造的特徴を明らかにできる静電場解析を共結晶体に適用することで、結晶内分子の電子分極及び分子の極性、分子間相互作用を定量的に求めることができる。これらの精密な解析結果と物性(溶解度、熱・湿度安定性)との相関関係を明らかにすることにより、創薬における物性制御に必要なパラメーターを抽出する方法論の構築を行う。最終目標である医薬品共結晶体の物性予測制御法の構築のため、精密構造解析の結果に基づいた分子の結合性、電子分極及び分子の極性、分子間相互作用から、分散(ファンデルワールス力)、分極(ダイポールモーメント)、水素結合(ドナー・アクセプター性)を抽出する。これらのパラメーターを3次元のベクトルで表し、系統的に合成した共結晶体の物性の類似性から共結晶体安定性や溶解性などの制御及び推定するための分子設計の技術を確立する。確立した方法論を新規共結晶医薬品の分子設計・合成に応用し、安定性及び溶解性などの物性の予測制御を実証する。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 3件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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