本研究では、TLR4刺激抗体による1型糖尿病抑制機序の解明を通じて、新しい自己免疫疾患の発症予防・治療的寛解導入法の分子基盤を構築することを目的にした。 TLR4刺激抗体投与によってNODマウスの膵島へのリンパ球浸潤が軽減し、樹状細胞における副刺激分子の発現低下と血清IL-2、IL-4、IL-33、IL-10濃度の上昇が認められた。また、CD11b+細胞や制御性T細胞が増加していた。TLR4刺激抗体によりCD11c+樹状細胞を前処置すると、そのT細胞刺激活性は減弱した。一方、TLR4刺激抗体はCD4+T細胞の活性化を直接的に抑制しなかった。NOD-scidマウスに自己反応性NOD T細胞を養子移入すると1型糖尿病を発症するが、TLR4刺激抗体の前処置はその発症を遅延した。これらの結果から、TLR4刺激抗体は自己反応性T細胞を直接標的とせず、制御性T細胞等の免疫抑制細胞の誘導を介した間接的作用機序により、自己反応性T細胞を抑制し、1型糖尿病を予防、治療すると考えられた。 これらの結果を受け、最終年度はTLR4刺激抗体による間接的T細胞抑制機序について解析し、以下の知見を得た。抗原特異的なT細胞抑制機序を解析するために、OVAに対するT細胞受容体を持つOT-IとOT-II組換マウスを用いた。OT-IとOT-IIマウス由来のCD8とCD4 T細胞をCFSE標識し、C57BL/6マウスに養子移植後、OVAに対する抗原特異的T細胞応答を解析した。その結果、TLR4刺激抗体を投与したマウスではOVA特異的なT細胞分裂が抑制していた。また、TLR4刺激抗体を投与すると骨髄由来免疫抑制細胞と同じ細胞表面マーカーを持つGr1+CD11b+細胞が増加することを明らかにした。このGr1+細胞とT細胞を共培養しCD3/CD28刺激したところ、T細胞の増殖とIL-4産生が有意に低下していた。この結果から、TLR4刺激抗体が骨髄由来免疫抑制細胞の誘導を介してT細胞を間接的に抑制していることが示唆された。
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