研究課題
イノシトールリン脂質は3つの水酸基のリン酸化状態の違いにより全8種類が存在し、リン酸化・脱リン酸化酵素により相互に変換されることで、多様な生理機能を制御している。中でも最も遅れて発見されたホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸(PI(3,5)P2)は、酵母から哺乳動物に共通して細胞内小胞輸送の制御に関与している。これまでに研究代表者は、PI(3,5)P2の唯一の生成酵素であるホスファチジルイノシトール3リン酸 5-キナーゼ(PIPKIII)の遺伝子欠損マウスを作製・解析することで、個体発生における必須の役割と腸上皮細胞における生理的な重要性を明らかにし、報告してきた。本研究課題においては、中枢神経系前駆細胞特異的なPIPKIII遺伝子欠損マウスを作出することで初めて明らかになった「髄鞘(ミエリン)形成におけるPI(3,5)P2の重要性」について解析を進めてきた。その結果、オリゴデンドロサイトにおけるPI(3,5)P2こそが髄鞘形成に必須であることをマウス個体のレベルで明らかにした。平成27年度には、PI(3,5)P2脱リン酸化酵素遺伝子改変マウス6系統の作製・戻し交配を進め、そのうち1系統の活性消失変異体ノックインマウスを用いた解析を進めた。平成28年度中に残りの5系統については解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画では、(1)初代培養細胞系を用いた髄鞘形成機構の解析と、(2)PI(3,5)P2脱リン酸化酵素遺伝子欠損マウスを用いた髄鞘形成機構の解析を予定していた。このうち、(2)の解析については、6系統のうちノックインマウスを用いた1系統の解析を行った。残りの系統についても平成28年度の早い段階で解析を完了するべくマウスの交配を進め、準備が整った。(1)、(2)については、やや遅れている状況である。一方で、当初平成28年度に計画していた(3)PI(3,5)P2プローブの開発については、これまでに最も有望と考えられていたプローブについて、詳細に解析を行うことで、実際にはPI(3,5)P2以外の分子を認識している可能性が極めて高いことを明らかとし、平成27年度中に査読付論文として報告することが出来た。(3)については、当初の計画以上に進展している。以上を踏まえて、概ね順調に進展していると考えている。
平成28年度までに完了していない(1)初代培養細胞系を用いた髄鞘形成機構の解析と、(2)PI(3,5)P2脱リン酸化酵素遺伝子欠損マウス(残り5系統)を用いた髄鞘形成機構の解析を進めていく。脳の組織学的解析においては、クリューバー・バレラ染色による光学顕微鏡レベルでの解析に加え、脳梁部の電子顕微鏡像を用いた詳細な解析を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
巻: 10 ページ: e0139957
10.1371/journal.pone.0139957.
Cancer Discov.
巻: 5 ページ: 365-375
doi: 10.1158/2159-8290.