研究実績の概要 |
イノシトールリン脂質は3つの水酸基のリン酸化状態の違いにより全8種類が存在し、リン酸化・脱リン酸化酵素により相互に変換されることで、多様な生理機能を制御している。中でも最も遅れて発見されたホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸(PI(3,5)P2)は、酵母から哺乳動物に共通して細胞内小胞輸送の制御に関与している。 これまでに研究代表者は、PI(3,5)P2の唯一の生成酵素であるホスファチジルイノシトール3リン酸5-キナーゼ(PIPKIII)の遺伝子欠損マウスを作製・解析することで、個体発生における必須の役割と腸上皮細胞における生理的な重要性を明らかにし、報告してきた。 本研究課題においては、中枢神経前駆細胞特異的なPIPKIII遺伝子欠損マウスを作出することで初めて明らかになった「髄鞘(ミエリン)形成におけるPI(3,5)P2の重要性」について解析を進めてきた。その結果、神経細胞におけるPI(3,5)P2ではなく、オリゴデンドロサイトにおけるPI(3,5)P2産生こそが髄鞘形成に必須であることをマウス個体のレベルで明らかにした。続いて、産生されたPI(3,5)P2を分解するPI(3,5)P2脱リン酸化酵素が髄鞘形成に果たす役割について研究を進めた。これまでに脱リン酸化酵素5分子の関与について検証を行ったが、明らかに関与する分子は同定できなかった。オリゴデンドロサイトでのPI(3,5)P2代謝には、これらの脱リン酸化酵素が複数関わっているために、1分子の欠損では顕著な表現型が見出されなかったものと考えられる。
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