研究課題
糖尿病は、慢性的な高血糖や耐糖能の低下を示す症状のことである。糖尿病状態が継続されると、重篤な糖尿病合併症が引き起こされる。糖尿病患者の5%は細菌感染症に罹患しており、慢性的に細菌感染症が併発している糖尿病患者では、次第に糖尿病治療が効果を示さなくなる。患者の糖尿病症状が重篤化していくと、敗血症や髄膜炎など致死的な感染症を発症する。黄色ブドウ球菌は、ヒトの皮膚や鼻腔に常在する細菌である。この菌は健常人に対してほとんど感染しないが、糖尿病患者に対して高い感染性を示し、敗血症、心内膜炎、足部潰瘍など重篤な疾患を引き起こす。これまでに我々は、高血糖カイコ感染モデルを確立し、高血糖カイコに対する感染には必要であるが通常カイコに対する感染には必要ない黄色ブドウ球菌の新規の遺伝子を複数同定している。本研究では、この高血糖カイコ感染モデルを用いて黄色ブドウ球菌が糖尿病宿主内で遺伝子発現を変化させ、感染を成立させる分子ネットワークの全体像を明らかにすることを試みた。平成26年度において我々は、通常、及び高血糖カイコの宿主内における黄色ブドウ球菌の遺伝子発現変動をRNA-Seq法による解析から、病原性に寄与することが類推できる宿主内で発現上昇している遺伝子群を同定した。次に、細菌培養に使われるLB培地を用いて、グルコース依存的な黄色ブドウ球菌の遺伝子発現変動について明らかにした。それらの結果と比較し、グルコースによる発現変動だけでは説明できない高血糖カイコ内で特異的に発現変動している黄色ブドウ球菌の遺伝子群の同定に成功した。また、同定した遺伝子群を機能別に分類し、高血糖カイコの体内で発現が上昇する黄色ブドウ球菌の代謝経路を複数見出した。以上の結果は、黄色ブドウ球菌が高血糖宿主に感染するために特別な代謝経路を利用していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の計画通り、高血糖カイコ内で特異的に発現変動している黄色ブドウ球菌の遺伝子群を同定し、高血糖カイコの体内で発現が上昇する黄色ブドウ球菌の代謝経路を複数見出すことに成功した。また、今後の計画で解析する予定の遺伝子も絞り込むことができた。よって、私は研究が順調に進展していると判断した。
本研究課題の研究スキームとしては、網羅的解析で得られたデータを整理してネットワークとして理解し、そのネットワークの形成において最も重要な因子の機能を明らかにする。平成26年度で得られた高血糖カイコの宿主内で発現誘導された黄色ブドウ球菌の遺伝子群の欠損株を作成し、高血糖カイコに対する病原性に必要な遺伝子かどうか確証する。その遺伝学的な解析から、糖尿病宿主に感染するために必要な黄色ブドウ球菌の代謝経路を特定する。また、得られた鍵因子の一次構造、もしくは結晶構造解析から生化学的な活性を類推し、タンパク質を精製して、それらの生化学的活性を明らかにする。
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