研究課題
Activity-regulated cytoskeleton-associated protein (Arc)遺伝子は、神経活動依存的に発現が誘導される代表的な神経系最初期遺伝子である。脳由来神経栄養因子BDNF刺激がArc遺伝子発現を顕著に活性化すること、ならびにArc遺伝子が転写因子serum response factor (SRF)の標的となっていることが知られている。本研究では、SRFコファクターによるArc遺伝子発現制御の機構解明を目指した。培養大脳皮質ニューロンをBDNFで刺激すると、顕著な一過性のmRNA発現上昇, ホタルルシフェラーゼレポーター転写活性化が検出された。また、Arc遺伝子上のdistalプロモーターに存在するSRF結合部位がその活性化に関わっていること、その近傍に存在するSRFコファクターternary complex factor (TCF)欠乏部位を変異させると、basalレベルの転写活性が若干上昇することが明らかとなった。さらに、TCFとは異なるSRFコファクターのmegakaeyoblastic leukemia(MKL)がArc遺伝子発現に関わっているかどうかも検討した。RNA干渉によるMKL2ノックダウンでArc distal promoter 活性化が抑制された。また、我々が同定した新規MKL2アイソフォームSOLOISTがArcプロモーター活性化を起こす可能性が示された。さらに、SOLOISTコンディショナルKOマウスの作製は、キメラマウスの作製までの過程まで進んだ。
3: やや遅れている
1.SRFコファクターの切替えによるArc遺伝子転写の分子機構(細胞レベルでの再検証と詳細解析)大脳皮質ニューロン培養系をBDNFで刺激することにより、一過性の劇的なArc遺伝子の誘導が起きることをmRNAレベル、およびタンパク質レベルにより確認できた。また、Arc遺伝子プロモーターに存在するSRF結合配列がBDNF 誘導性Arc遺伝子活性化に必要であること、SRFコファクターTCF結合配列ははbasalレベルの抑制活性に関与すること、MKL2ノックダウンによりBDNF誘導性のArcプロモーター活性化が抑制されることを確認できた。特にArc遺伝子の遠位に存在するSRF結合配列の活性化はMKL2を介している可能性を提示できた。1.に関しては概ね目標を達成できた。2.ArcmRNA発現とArc遺伝子プロモーター上のSRF転写因子複合体構成変化の追跡現在、細胞レベルのクロマチン免疫沈降実験の再現実験に取り組んでいる。1.の結果から、Arc遺伝子の遠位に存在するSRF結合配列が重要であることが示されたため、TCFの一つであるElk1, MKL2の抗体によるアッセイを予定している。in vivoの検討には至っていない。3.SOLOISTコンディショナルKOマウスの作製エキソンの両端にloxP配列を挿入したターゲティングベクターが完成し、ES細胞への遺伝子導入、相同組換えを起こしたES細胞を得ることができた。また、ES細胞を受精卵に移植してキメラマウスを得ることに成功している。今後は、キメラマウスのgermline transmissionの確認、交配を行い、最終的にはCreレコンビナーゼによるSOLOISTのKOマウスを得る予定である。3.の実験は、ようやくキメラマウスを得ることができ、やや遅れているが、進行はしている。
現在までの達成度をふまえ、細胞レベルにおけるArc遺伝子発現制御機構についてまとめることを当面の目標として念頭に置く。特に、SRFコファクターによる制御機構を明らかにする。また、昨年度までにSOLOISTがArc遺伝子発現制御を積極的に行っていることを示す予備的データを得ている。このデータを元に内在性Arc遺伝子発現に関わるエピジェネティックな制御機構についても新たに検討を加えることも考えている。In vivoにおけるArc遺伝子発現については、細胞レベルの解析状況との兼ね合いを考え、優先順位としては低い位置に留める。SOLOISTコンディショナルKOマウスに関しては、今後はCreレコンビナーゼを発現するマウスとの交配により、KOマウスを得て、解剖学的所見(神経ネットワーク形成、樹状突起形態、軸索長、シナプス、スパイン形態)を得る。また、KOマウスの行動解析などの表現型についても検討を行う予定である。さらに、上記、KOマウスとArcルシフェラーゼトランスジェニックマウスを交配させて、in vivoでSOLOISTがArc遺伝子発現に関与しているかどうかの検討も行いたい。その解析が困難である場合には、脳組織切片をArc抗体で免疫染色し、野生型と組換え型マウスの比較を行う。あるいは、定量PCRを用いてArc mRNA発現量を比較検討する。また、時間的余裕があれば、野生型とKOマウスの脳内遺伝子発現プロファイルも行いたい。
配属された学生数の減少により、年度末の消費がいくぶん減少した。
次年度は、物品費を多く消費するものと考えられる。引き続き、消耗品を中心に消費することを計画している。
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