研究課題/領域番号 |
26460072
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
長田 茂宏 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40263305)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ヒストン / ヒストンメチル化 / ヒストンアセチル化 / ヒストンバリアント / がん |
研究実績の概要 |
前がん病変は細胞のがん化およびそれに対する防御機構のせめぎ合いの場であり、ここで発現が変化するクロマチン機能制御に関与する因子は発がん制御、細胞死に関与する。これまでに肝前がん病変において発現変化するクロマチン関連因子を複数同定している。H26年度は、ヒストンメチル化酵素CARM1の局在、安定性、ヒストンバリアントH2a.zがオートファジーに与える影響、ヒストン脱アセチル化酵素Hdac9が細胞死関連遺伝子のプロモーター活性に与える影響を検討した。 CARM1は主に核において発現している因子であるが、発がん進行過程において、細胞質においても発現が上昇している可能性を見出している。発がん過程の酸化ストレスに注目し、酸化ストレス応答に関わる因子の共発現がCARM1発現場所に与える影響を検討したが、顕著な変化を与えなかった。また、ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞において、細胞死を誘導するDNA損傷薬剤添加時にCARM1の局在に顕著な変化は見出されなかった。 細胞死制御関連遺伝子BAXはp53依存的にプロモーター活性が制御される遺伝子のひとつである。HeLa細胞において、HDAC9はBAXのプロモーター活性を抑制した。主に細胞質に発現するHDAC9スプライシングバリアントもBAXプロモーター活性を抑制する傾向が観察された。 オートファジー制御に関わるリン酸化酵素mammalian target of rapamycin阻害剤であるラパマイシン添加により、ヒストンH2aのバリアントであるH2a.zの発現が減少することを見出してきた。H2a.zには2種類の遺伝子が存在する。これらの遺伝子は、ラット胎仔肝由来細胞においてはラパマイシンによるオートファジー誘導過程において発現減少の傾向を示したが、ヒト子宮頸がん由来細胞においては、顕著な変化を示さなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CARM1過剰発現により、CARM1がプロテアソーム系を介して分解される可能性を得ている。細胞死誘導関連条件におけるCARM1発現状態を解析したが、発現状態に顕著な変化を与える条件は見つからなかった。発現部位について検討したところ、HeLa細胞においては顕著な変化は見出されなかったが、線維芽細胞において、一部のDNA損傷薬剤添加により、細胞質で発現するCARM1量が上昇する可能性が示された。このことから、正常細胞の性状を示す細胞の方が発現場所の変化が検討しやすい可能性が考えられた。 HDAC9がp53を介したBAXプロモーター活性を抑制した。脱アセチル化酵素活性部位変異体についても抑制活性を示したことから、この抑制効果に脱アセチル化酵素活性を必要としない可能性が考えられた。これまでに脱アセチル化酵素活性領域を欠いたスプライシングバリアントによるプロモーター活性抑制機構も報告されており、上記バリアントを用いた解析も今後行う必要がある。クラスIIaに分類されるHDAC9は核のみではなく、細胞質にも発現している。細胞質に発現するスプライシングバリアントもBAXプロモーター活性を抑制する可能性を見出した。HDAC9によるBAXプロモーター活性抑制機構は複数存在する可能性が考えられた。 H2a.zには2種類の遺伝子が存在し、わずかにアミノ酸が異なる。これらの遺伝子破壊の表現型が異なることから、機能が異なることが推察されている。オートファジー誘導過程において、2種類の遺伝子ともmRNA発現は減少する。ひとつの遺伝子発現抑制はオートファジー関連遺伝子の発現を上昇させたが、他方はその傾向を示さなかった。このことから、これらの遺伝子がオートファジーに与える影響は異なる可能性が考えられた。 上記の成果が得られていることから、計画は概ね順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
DNA損傷薬剤添加により、CARM1の細胞質における発現が上昇する可能性が示された。DNA損傷薬剤添加条件を検討し、細胞死誘導もしくは細胞死からの回避との関係を解析する。また、細胞質における相互作用因子を探索することなどにより、細胞質における役割の解析も行う。また、CARM1の基質であるヒストンH3の17番目のアルギニン残基のメチル化阻害剤を用いた解析もあわせて検討する。 HDAC9が細胞死制御に関わるBAXプロモーター活性を制御する分子機構を解析する。HDAC9の脱アセチル化酵素活性領域を欠いたスプライシングバリアントによる、プロモーター活性の抑制機構も報告されている。これらスプライシングバリアントとの相互作用などの検討から、抑制機構を解析する。また、これまでに同定しているHDAC9相互作用因子は神経変性疾患にも関与することから、この因子を介した細胞死制御、プロモーター活性制御についても併せて検討する。 オートファジー誘導時にH2a.zの発現が減少することが見出された。H2a.z発現制御にはがん原遺伝子c-Mycが関与する可能性が示唆されている。H2a.zプロモーターにはc-Myc結合配列が存在することから、その領域の変異体、c-MycヘテロダイマーパートナーであるMaxを用いた検討により、H2a.z発現制御機構を解明する。また、肝前がん病変において発現上昇するH2a.z以外のクロマチン制御に関わる因子について、オートファジー誘導過程における発現変化、オートファジーに与える影響を検討し、オートファジーの維持機構、アポトーシスを含む細胞死との関係を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究費の多くを研究消耗品として、申請・利用している。実験条件の最適化の過程において、比較的安価にかつ効率的に検出できる系を設定することができた。このことから次年度使用額が生じた。この条件を利用することにより、さら効率的に実験を遂行し、目的の達成を目指す。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究進展につれて、複数の相互作用因子やスプライシングバリアントの解析が必要となった。これらの因子との解析を進めていくことが、クロマチン関連因子が細胞死制御に与える影響の解明につながると考えられる。
|