細胞のがん化は遺伝子が変異するジェネティクス異常に加えて、ヒストン修飾などのエピジェネティクス異常も関与する。これまでに肝前がん病変において発現上昇しているヒストン修飾因子を複数単離しており、その機能解析を行った。H29年度はヒストン修飾酵素のひとつアルギニンメチル化酵素CARM1のスプライシングバリアントの機能解析、およびヒストン脱アセチル化酵素HDAC9と類似のアミノ酸配列を含むクラスIIaヒストン脱アセチル化酵素の相互作用因子の解析を行った。 全長CARM1であるCARM1.v1に対し、エキソン15を欠くスプライシングバリアントであるCARM1.v4も発がん初期で発現上昇をしている。細胞種によりCARM1.v1とCARM1.v4のmRNA発現量比が異なり、がん細胞の方がCARM1.v4の発現が高い傾向が示された。CARM1はがん抑制遺伝子産物p53の転写共役因子として機能する。エトポシド非存在下のp53標的遺伝子の発現にCARM1.v1は影響を与えなかったことに対し、CARM1.v4は発現をわずかながら上昇させた。一方で、エトポシド存在下の発現をCARM1.v4抑制する傾向を示した。p53標的遺伝子の発現に与える影響はCARM1スプライシングバリアントにより異なる可能性が示された。 HDAC9相互作用因子として同定したHAP1は、HDAC9の局在変化に影響を与えることにより、機能制御に関わる可能性を見出している。HDAC9以外のクラスIIaのHDACがHAP1と相互作用した。これまでにクラスI、クラスIIbなどの他のクラスのHDACは相互作用を示さなかったことから、HAP1はクラスIIa特異的に機能制御に関わる可能性が考えられた。今後、クラスIIaのHDACがHAP1のアセチル化状態に与える影響を解明することにより、互いの因子の機能制御の解明につながると考えられる。
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