骨組織は常にその一部が破骨細胞により吸収され、同時にほぼ同量の新しい骨が骨芽細胞の分化により形成されることにより、恒常性が維持されている。骨分化の分子機構を解明することは、骨分化異常を原因とする疾病に対する有効な創薬開発のために極めて重要である。昨年度申請者らは、Fad104がBMP-Smadシグナルに加えて、STATシグナルも制御していること、さらにSTATシグナルも骨分化に重要な役割を担うことに着目し、検討を進め、FAD104の1-277アミノ酸がSTAT3との相互作用に必須であることを明らかにした。また、fad104は、STAT3のSH2ドメインと転写活性化ドメインを介して相互作用することも明らかにした。さらに、FAD104の過剰発現はSTAT3のリン酸化レベルを減弱する一方で、FAD104の1-277アミノ酸を欠失した欠損変異体は、抑制できないことを見出した。以上の結果より、fad104は、1-277アミノ酸の領域を介して、STAT3のリン酸化レベルを抑制することを明らかにできた。本年度は、SmadならびにSTATシグナルが重要な役割を担う生命現象の一つである上皮間葉転換(EMT)にfad104が及ぼす影響について検討を進めた。 検討の結果、FAD104はEMTの過程でその発現が顕著に増加することを見出した。さらに、FAD104の発現を抑制するとEMTの誘導が亢進されること、逆に、FAD104の過剰発現によりEMT誘導が阻害されることを見出した。また、その過程においてFAD104はTGF-b依存性のSmadシグナルを制御することも新たに見出した。EMTはがん細胞の浸潤や抗がん剤に対する抵抗性惹起に極めて重要な生命現象である。本年度の検討により、FAD104が脂肪細胞や骨細胞の分化にとどまらず、EMTの誘導にも重要な役割を担うという新しい知見を得ることができた。
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