研究課題/領域番号 |
26460077
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
山口 智広 昭和大学, 薬学部, 准教授 (50347530)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脂肪滴 / 脂肪細胞 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
細胞内脂肪滴は全身の細胞に存在する細胞小器官であり、単に中性脂肪を貯蔵するだけではなく、自身が積極的に脂質代謝を制御している。この制御には脂肪滴の表面に局在する多数のタンパク質が関与している。白色脂肪細胞(WAT)における脂肪滴タンパクの機能については、これまで主にマウス細胞株3T3-L1を用いて解析が行われ、多くの成果が得られてきた。しかしながら、ヒト脂肪細胞においても3T3-L1細胞と同様の機構が働いているのかは疑問が残る。また、近年の脂肪細胞研究において、白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞(BAT)への分化転換という現象が、肥満治療に関連することからも注目されてきている。これらの背景のもと、本研究では骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)や脂肪由来幹細胞(hADSC)をヒト脂肪細胞モデルとして、その脂肪滴の性状解析や、BATへの分化転換について解析している。本年度は以下の解析を行った。 hADSCを褐色脂肪細胞に分化誘導することができれば、WAT内のエネルギー代謝を亢進させ、抗肥満などの効果が期待できる。そこでhADSC白色脂肪の褐色化を誘導する因子のスクリーニングを行っている。また、hMSC白色脂肪細胞の脂肪滴局在タンパクのプロテオミクスを行った。さらに、これらと並行して、医薬品の副作用の研究におけるヒト脂肪細胞の有効性を検討している。非定型抗精神病薬であるオランザピンは、統合失調症治療の第一選択薬として広く使用されているが、体重増加や肥満などの副作用が問題視されている。そこでhMSCをヒト脂肪細胞のモデル細胞として、オランザピンの脂肪滴への影響を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに以下の研究成果を得ている。 hADSC白色脂肪の褐色化を誘導する因子のスクリーニング -- げっ歯類細胞では褐色化を引き起こすシグナル分子がいくつか報告されている。それらがhADSC脂肪細胞において効果を示すのか、β3受容体アゴニストやナトリウム利尿ペプチドについて検討した。また、脂肪細胞分化に、抗酸化作用を持つ植物フラボノイド類が影響を与えることがわかってきている。これらが白色脂肪細胞の褐色化へ効果を及ぼすことを期待し、各種フラボノイドのhADSC分化への影響を検討した。これまでの実験では褐色化のマーカーであるUCP-1、PRDM16の発現に変化を起こす化合物を見出すには至ってはいない。しかし、細胞にcAMPのアナログである8-bromo-cAMPを投与するとUCP-1の発現が上昇したことより、褐色化のシグナルはhADSC内で作動していると考えられる。 hMSC白色脂肪細胞の脂肪滴タンパクのプロテオミクス -- hMSC白色脂肪細胞から、ショ糖密度勾配遠心法で脂肪滴を分画し、そのタンパク質組成をLC/MS/MSで網羅的に解析した。結果としてPLINファミリーやRabなど約100種のタンパク質が同定された。 オランザピンによるhMSC脂肪細胞分化の促進機構 -- hMSCをモデル細胞として、オランザピンの脂肪細胞分化への影響と調べたところ、薬剤による有意な脂肪蓄積の増加が認められた。この時、脂肪滴タンパクであるPLIN2とPLIN4が増加していた。よって、オランザピンの末梢における脂肪細胞滴増加作用が、副作用である体重増加の一端を担っていることが示されるとともに、hMSCが医薬品の副作用を解析するヒト脂肪細胞モデルとして有用であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究からhMSCやhADSCがヒト脂肪細胞モデルとして有用であることが示唆された。今後もこれらの細胞を用いて解析する。まずは、白色脂肪の褐色化を誘導する因子のスクリーニングを続ける。げっ歯類細胞で報告されている褐色化因子の効果を中心に検討する予定である。また、褐色脂肪細胞の脂肪滴タンパクについては不明な点も多く、脂肪滴タンパクのプロテオミクスを行い、本年度得られた白色脂肪細胞の結果と比較する。さらに褐色脂肪細胞における脂肪分解機構について検討する。これらの研究を通して、褐色脂肪細胞に特異的な因子や、効率的な褐色脂肪細胞分化誘導法の解明を目指す。
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