細胞内脂肪滴は、トリアシルグリセロールやコレステロールエステルがリン脂質一重膜によって覆われた細胞小器官であり、生体の脂質代謝に主要な役割を果たしている。脂肪細胞における脂肪滴の異常な蓄積が肥満の要因であり、この中性脂肪の蓄積と分解は、Perilipinファミリーに代表される局在タンパク質によって制御されている。近年、白色脂肪細胞(WAT)から褐色脂肪細胞(BAT)への分化転換(Browning)現象が認められており、WATをBATに人工的に誘導できれば、WAT内のエネルギー代謝の亢進による抗肥満などの効果が期待できる。本研究では、ヒト脂肪細胞モデルとして脂肪由来幹細胞(hADSC)や骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を用い、BATへの分化転換をおこす物質のスクリーニングを行い、その脂肪滴タンパク質への影響について解析している。 これまでに、脂肪滴タンパク質のプロテオミクスや、Browning誘導因子のスクリーニングを行い、FGFファミリーのFGF21、およびマイオカインであるイリシンが、BATマーカーUCP1を増加させることがわかった。また、FGF21処理によってPerilipin2の発現増加が認められ、イリシン処理でPerilipin1の発現低下とPerilipin2の発現増加が認められた。この脂肪滴タンパクの変化に伴い、イリシン処理により中性脂肪の蓄積が減少していた。これらの因子がBrowningに関与していることが示唆される。また、様々な脂肪酸や植物ポリフェノール類のADSC細胞への影響を検討した。結果としてドコサヘキサエン酸処理とクエルセチン処理により強力な脂肪蓄積抑制作用と、脂肪滴タンパク質の組成変化が認められた。しかし、両者ともBATマーカータンパク質の発現に変化は認められなかった。
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