シェーグレン症候群(SjS)は外分泌腺に特異的な炎症を生じ,乾燥症状を特徴とする自己免疫疾患である.しかし,このSjSの発症に直接関連する自己抗体は未だ同定されていない.一方,水チャネルの一種であるaquaporin-5(AQP5)は種々の外分泌腺細胞に選択的に存在し,その欠損によってSjS様の乾燥症状を呈する.本研究では, SjS患者の一部が血中にこのAQP5に対する自己抗体を持つことを示唆してきた.本年度は,まず,この抗AQP5自己抗体を検出する簡便な方法としてin cell ELISを構築した.具体的には,AQP5を高発現させたヒト唾液腺上皮細胞またはAQP5を持たないコントロール細胞をELISAプレートに培養し,これを患者血清で処理し,さらに抗ヒトIgG抗体で検出して定量的に評価した.SjS患者試料を追加し,90名分の血清を調べたが,このうち約6割の試料は,AQP5発現細胞で有意に高い免疫反応性を示した.また,患者血清より精製したIgG分画を試料としても同様の結果であった.しかし,いずれの患者抗体もSDS-PAGEでの変成AQP5には反応性を示さず,これらの抗体がAQP5の高次構造を認識していると推定された.興味深いことに,抗AQP5抗体陽性であった患者血清のうち約2割は脳に存在するAQP4にも反応した.AQP4自己抗体は視神経脊髄炎(NMO)の原因と考えられており,AQP4およびAQP5両陽性の患者は,NMO合併症の高リスク群と推定された.さらに,患者由来の抗AQP5自己抗体の特性についても調べたが,約4割の抗AQP5抗体はAQP5の水チャネル活性を著明に阻害することが判明した.これらの成績は,少なくとも一部の患者では,抗AQP5が外分泌腺の機能を阻害し,その結果として乾燥症状を生じている可能性を強く示すものである.
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