研究課題
レチノイン酸 (RA) は、ビタミンAの活性型であり、生命維持・病気予防において多岐にわたる重要な作用を示す。RAがヒト前骨髄性白血病細胞 (HL60細胞) に対し強力な細胞分化誘導能を持つことから、現在急性前骨髄球性白血病患者の治療に使われている。本研究ではRA核内受容体とは別の作用機構として、cAMP依存性リン酸化酵素 (PKA) 等のシグナル分子 および ヒストン等の核内タンパク質へのレチノイル化反応 (RAによる翻訳後タンパク質修飾) があることを証明し、RAのエピジェネティクス制御作用という新しい概念を提唱することにある。先ず、HL60細胞の新規核内レチノイル化タンパク質の解析・同定を行い、アクチンの脱重合 (細胞骨格) を制御するRhoAの活性化を阻害する作用をもつRho-GDIβを同定した。RAはCaspase-3活性の抑制を介することなく、Rho-GDIβと結合することによりその切断を阻害し、apoptosisを抑制することを見出した。また、cAMP依存性リン酸化酵素 (PKA) の調節サブユニット(RIIα) がレチノイル化されていることから、RAによるPKAの安定性、細胞内局在性の変化について検討を行った。RAがプロテアソームでのRIIα分解抑制によるPKAの安定化と核移行を誘導し、核内レチノイル化PKAによる核内タンパク質のリン酸化を促すことで、顆粒球様細胞への分化を誘導する可能性を示した。さらに、HL60細胞から単離したヒストンのリン酸化がPKAによるものであり、RA処理によりヒストンのリン酸化は増加し、アセチル化は減少することを明らかとした。以上、RAがRIIαをレチノイル化することで安定化させて核にPKAを移行させた後、核内PKAがDNAの転写に関わるヒストンのリン酸化、アセチル化に変化を与え、RAのエピジェネティクス制御を行うことが示唆された。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件)
Biochim. Biophys. Acta.
巻: 1861 ページ: 276-285
10.1016/j.bbagen.2016.11.039.
Biol. Pharm. Bull.
巻: 40 ページ: 486-494
10.1248/bpb.b16-00933.
巻: 40 ページ: 495-503
10.1248/bpb.b16-00934.
巻: 1861 ページ: 22011-2019
10.1016/j.bbalip.2016.10.001.
FEBS Lett.
巻: 590 ページ: 1592-1601
10.1002/1873-3468.12197.