研究課題/領域番号 |
26460084
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
小西 守周 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (00322165)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | FGF / 脂肪酸 / 産生誘導 / 肝臓 |
研究実績の概要 |
細胞外分泌因子FGF21は生体のエネルギー調節因子として働く内分泌因子である。近年、その血糖降下作用、脂質代謝改善作用、抗肥満症作用などから、糖尿病や肥満症に対する医薬品として、開発が進められている。本研究において、このFGF21の消化管吸収に対する役割を検討する過程で、我々は食用油の経口投与によりFGF21の血中濃度が著しく上昇することを見いだした。FGF21の薬理作用を考慮し、血中FGF21濃度を上昇させる食用油を検討したところ、コーン油やオリーブ油に比較して、アマニ油や魚油の投与において強く上昇することが明らかとなった。また、この血中濃度の上昇について寄与する臓器を検討したところ、膵臓や脂肪組織では発現の誘導はほとんど認められなかったが、肝臓において約7倍程度と、著しい発現誘導が観察された。食用油は、その種類により脂肪酸の含量が異なることが知られている。また肝臓においては、脂肪酸をリガンドとする細胞内受容体PPARαによってFGF21が誘導される。そこで、脂肪酸がFGF21の産生量に影響する可能性を検討した。その結果、オレイン酸などでも上昇したものの、特にαリノレン酸の経口投与において血中濃度が上昇することを見いだした。また、αリノレン酸によりマウス初代培養肝細胞におけるFGF21の発現が上昇した。αリノレン酸はω3脂肪酸の一つであり、同じくω3脂肪酸には魚油に多く含まれるEPAやDHAが存在する。以上の結果より、FGF21は特にω3脂肪酸を多く含む食用油において強く誘導される可能性が示唆された。このω3脂肪酸含有食用油は、従来より、生体の代謝調節を改善することが知られている。我々の研究成果により、この食用油による代謝調節の機構にFGF21が関わることを示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、脂質を経口投与した後に起こる脂質の吸収に、FGF21が関わる可能性を期待し、本実験を企画した。本実験を始める前の予備的な検討ではFGF21KOマウスと野生型マウスにおいて脂質の吸収能に差が認められたものの、残念ながら再現性が得られなかった。腸管を介した栄養素の吸収には、腸内細菌叢が強く影響することが知られている。また、腸内細菌叢にはマウスの飼育されている環境が大きく影響することも知られている。本研究では、予備実験を行った動物実験施設と、科学研究費により検討を行った際の動物実験施設が異なっていた。再現性が得られなかったのは、飼育環境により生じる腸内細菌叢の差が実験結果に影響を及ぼしたものと考えている。しかし、一方で、その研究を進める過程において、新たに食用油の種類によるFGF21産生能の差を発見し、さらに食用油に含まれる脂肪酸の種類がFGF21の誘導に及ぼす影響を明らかにした。FGF21は生理的な役割とともに、薬理的な意義が非常に注目を集めている。実際にFGF21の改変体については、2型糖尿病患者への臨床試験が複数開始されており、ヒトを対象とする際の薬理学的知見が集まりつつある。このようにFGF21、もしくはFGF21の改変体を直接投与することも医療として重要な試みであるとは思われるが、一方で内因性のFGF21の産生量を増加させる試みも、医学薬学的に重要な試みになると思われる。したがって、当初の目的とはやや異なるものの、それよりも医学薬学的に重要な研究課題を発見し重要な知見を得た、と考えている。次年度は、FGF21KOマウスを使用して、食用油の持つ代謝改善作用におけるFGF21の寄与を検討し、さらに医療応用などへの可能性を模索する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度の実験結果により、アマニ油や魚油の経口投与においてFGF21の肝臓における発現や血中濃度が一過性に著しく上昇することが明らかとなった。これらの食用油は、例えば魚油であれば、含まれるω3脂肪酸により、抗肥満症、抗炎症作用を有することが報告されているし(J. Clin. Med. 2015)、またアマニ油についても肥満症における糖代謝異常に対する改善作用を有することが報告されている(Nutr. Res. 2013)。FGF21は薬理作用として抗肥満症、糖代謝改善作用、脂質代謝改善作用を有することを考慮すると、魚油やアマニ油の持つ有用な薬理作用の一部、もしくは全てがFGF21の誘導を介している可能性が期待される。そこで、2016年度においては、FGF21KOマウスと野生型マウスを、アマニ油、魚油、あるいはコントロールとして用いるラードを含む飼料で長期間飼育し、代謝に対する食用油の作用を確認しつつ、その作用におけるFGF21の意義について明らかにして行く。特に、体重変化、各種臓器重量、脂肪組織中の脂肪細胞のサイズ、血糖値、血中インスリン値の変化、血中脂質組成の変化、さらには摂食量や脂質吸収能、エネルギー消費について検討を試みる予定である。また、食用油成分(ω3などの脂肪酸)によるFGF21の発現誘導について、初代培養肝細胞を用いてそのメカニズムを検討する。特に、肝細胞に発現する核内受容体PPARαが直接の誘導に関わる可能性を期待し、そのアンタゴニストを用いて培養系により明らかにしていく予定である。以上の検討により、様々な食用油によるFGF21の血中濃度上昇のメカニズムと、その意義を明らかにする。
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