FGF21は生体のエネルギー調節因子として働く内分泌因子である。近年、その血糖降下作用、脂質代謝改善作用、抗肥満症作用などから、糖尿病や肥満症に対する医薬品として開発が進められている。本研究において、このFGF21の消化管吸収における生理的意義を検討する過程で、我々は食用油の経口投与によりFGF21の血中濃度が著しく上昇することを見いだした。FGF21の薬理作用を考慮し、血中FGF21濃度を上昇させる食用油を検討したところ、アマニ油や魚油の投与で強く上昇することが明らかとなった。また、この血中濃度の上昇は肝臓での産生誘導による結果であると考えられた。食用油は、その種類により脂肪酸の含量が異なる。また肝臓においては、脂肪酸をリガンドとする細胞内受容体の一つ、PPARαによってFGF21が誘導される。そこで、脂肪酸の種類がFGF21の産生に影響する可能性を、経口投与実験やの肝細胞培養系において検討したところ、FGF21は特にω3脂肪酸により強く誘導される可能性が示唆された。このω3脂肪酸含有食用油は、生体の代謝に影響する薬理作用があることが知られている。そこで、ω3脂肪酸の含量の多いアマニ油から作製した高脂肪食とラードから作製した高脂肪食を独自に作製し、野生型マウス、FGF21KOマウスに長期投与した。野生型マウスでは、アマニ油含有飼料の長期摂取により、ラード含有飼料では認められなかった著しい脂肪肝が発症した。一方、FGF21KOマウスでは、その脂肪肝の発症が抑制された。この結果については、アマニ油により誘導されるFGF21が脂肪組織における脂肪分解を促進した結果、脂肪酸が血中に放出され肝臓で脂肪肝を誘発したものと考えている。以上の結果より、FGF21の産生を誘導する脂肪酸の同定と、その代謝における意義、さらには脂肪酸による代謝調節におけるFGF21の意義が明らかとなった。
|