昨年度までに我々は、種々のがん細胞に過剰発現している核膜孔因子Nup88と細胞骨格因子の一つであるビメンチンとの相互作用ががんの悪性化に関与する可能性を考えて研究を進めてきた。これまでにNup88を過剰発現した培養細胞の運動性が、ビメンチンの細胞内発現に依存していることを示唆した。さらに、この結合を阻害してやればがん細胞の運動性を抑制できると考えられたため、これを阻害する分子の創出に貢献すると思われたNup88およびビメンチンの結合様式および結合ドメインの同定を試みた。しかしながら、細胞粗抽出液を用いた検討では、両者の結合ドメインを明確にすることはできなかった。この点に関して本年度は、リコンビナントのGST融合型Nup88および市販のリコンビナントビメンチンを用いて、再度結合ドメインの同定を試みた。その結果、ビメンチンのN末端側の高度にリン酸化される1-96アミノ酸残基が全長のNup88に結合すること、Nup88のN末端の1-541アミノ酸残基が全長のビメンチンに結合すること、および、ビメンチンの1-96アミノ酸残基がNup88の1-541アミノ酸残基に結合することを示し、両者の結合ドメインを同定できた。さらにビメンチンのリン酸化はNup88との結合に影響を与えないことを示唆した。以上の結果から、当初計画していた、Nup88とビメンチンの相互作用を阻害するペプチドの創出に向けた基礎的な知見を得ることができた。
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