研究課題
我々はこれまでに、家族性アルツハイマー病に見られる変異型APPにおけるバイセクティングGlcNAc型糖鎖の増加とアルツハイマー病脳におけるバイセクティングGlcNAc合成酵素GnT-III遺伝子の発現増加を報告してきた。今年度、アルツハイマー病脳におけるバイセクティング型糖鎖について解析した結果、APPを切断しアミロイドβ(Aβ)を産生する酵素であるBACE1がバイセクティングGlcNAc型糖鎖修飾を受けること、アルツハイマー病脳でバイセクティングGlcNAc型糖鎖を持つBACE1が増加すること、が明らかとなった。さらに、GnT-IIIノックアウトマウス(GnT-IIIの欠損によりバイセクティングGlcNAcを合成できないマウス)では、Aβ蓄積の減少が認められた。これらの結果から、BACE1上のバイセクティングGlcNAc型糖鎖の増加がAβ蓄積の原因となることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
アルツハイマー病脳の解析から、GnT-III 遺伝子の増加によりBACE1の糖鎖がバイセクティングGlcNAc型に変化することが明らかになった点。さらに、GnT-III欠損マウスにおいてAβの蓄積が減少することが示された点。これらの結果から、我々が以前に報告した、アルツハイマー病脳におけるGnT-III 遺伝子の増加の意義について明らかにすることができた。さらに、BACE1におけるバイセクティングGlcNAc型糖鎖の増加がアルツハイマー病の発症や進行に密接に関わることを示すことができ、病態の一側面の解明に貢献できた。本研究成果は、GnT-IIIの活性阻害などにより、バイセクティングGlcNAc型糖鎖修飾の量を制御することで、アルツハイマー病の予防や治療に応用できる可能性を示すものである。
GnT-IIIに関する我々のこれまでの知見では、神経系培養細胞におけるGnT-IIIの過剰発現ではAβの産生量は減少することを報告しており、今回報告したGnT-III欠損マウスの結果と矛盾する。その要因として、培養細胞での強制発現系ではGnT-III活性が非常に高く、広範なタンパク質が高度にバイセクティングGlcNAc化されているため、他のタンパク質の糖鎖変化の影響が関与するためと考えられる。したがって、実際のアルツハイマー病脳では、BACE1などのGnT-IIIに親和性の高いタンパク質からバイセクティングGlcNAc化されることが病態に関わる可能性が考えられる。そこで、バイセクティングGlcNAc化の程度とAβ産生の関連やバイセクティングGlcNAc化による関連酵素活性への影響を調べる。また、アルツハイマー病脳において発現が変化するGnT-III以外の糖鎖遺伝子による糖鎖修飾変化とAPP代謝の関連についても解析を進める。
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