研究課題
生体のタンパク質の多くは糖鎖を有しており、糖鎖はタンパク質の物理的性質や分子間の認識に大きく影響する。老化などによる細胞内代謝の変化は糖鎖修飾に影響してアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを変化させることが考えられる。我々はこれまでに、糖鎖修飾がAPPの代謝に関わることを明らかにしてきた。糖タンパク質糖鎖にはアスパラギン(Asn)に結合するN型とセリンもしくはスレオニン(Ser/Thr)に結合するO型がある。主要なO型糖鎖であるO-GalNAc型(ムチン型)糖鎖の合成開始酵素であるN-アセチルガラクトサミン転移酵素(GALNT)は約20種のアイソフォームが報告されているが、それらの機能や基質特異性の違いはあまりわかっていない。作年度、我々はアルツハイマー病患者と健常者の脳検体を用いてGALNTファミリー遺伝子の発現解析を行い、アルツハイマー病の進行にともなっていくつかのアイソフオームの発現が変化することを明らかにした。今年度は、アルツハイマー病患者で有意に増加するGALNT6とAPP代謝との関係について検討した。培養細胞にGALNT6とAPPを共に強制発現させたところ、アミロイドβ(Aβ)の産生量が減少した。このとき、sAPPβの産生量は減少し、sAPPαの産生量は増加していたことから、Aβ産生量の減少は、APPのβ切断の抑制とα切断の促進によることが明らかとなった。一方、APP代謝に関わる各セクレターゼの発現量や活性には有意な差は認められなかった。APPのアミノ酸配列由来ペプチドを基質に用いたGALNT6活性測定実験から、APP切断部位近傍の特定のThrに対する過剰なO型糖鎖修飾がAPPの代謝に影響することが示唆された。本研究により、GALNT6によるO型糖鎖修飾はAβ産生を抑制し、アルツハイマー病に対して防御的な役割を果たしている可能性が考えられた。
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J. Biochem.
巻: 161 ページ: 99-111
https://doi.org/10.1093/jb/mvw056