研究課題/領域番号 |
26460093
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
村山 俊彦 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90174317)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / ラクトシルセラミド / ホスホリパーゼA2 / セラミドキナーゼ / セラミド-1-リン酸 / カルジオリピン / スフィンゴミエリン |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した平成27年度の研究実施計画に従って研究を実施した.1)ガラクトース結合型のラクトシルセラミド(LacCer)が,細胞膜上で多量体形成を起こしPKC/MEK/ERK系を介したcPLA2alphaのリン酸化による活性化経路を作動させていることを明らかにした.これまでの研究条件では,LacCerがセラミドキナーゼ活性を変化させなかった. 2)スフィンゴミエリン(SM)が細胞膜上で分泌型PLA2によるアラキドン酸生成を抑制することを見出した.この現象は内在性のSMを変動させた場合にも観察され、生理的な条件下でも起こっていることが示された.また分泌型PLA2による細胞死もSM含量で変動した. 3)cPLA2alpha,セラミドキナーゼ,SM合成酵素の活性制御能を有する合成スフィンゴ脂質誘導体の合成・探索を継続して行っている.この研究の遂行中に,2種類の異なった蛍光発色団を有するセラミド誘導体を作成できた. 4)スフィンゴ脂質変動による潰瘍性大腸炎の病態軽減の可能性を,セラミドキナーゼノックアウトマウス(CerK-/-)と正常マウスを用いて比較検討した.潰瘍性大腸炎誘導薬DSSを経口投与し,両群の大腸炎発症,並びに進行速度を比較した結果,大きな変化は見られなかった.潰瘍発症前の正常時に両群マウスの下向結腸を摘出し,縦走性平滑筋の運動機能を比較した結果,CerK-/-群では電気刺激による一酸化窒素(NO)を介した弛緩反応の減弱傾向が観察された.発症時には両群とも弛緩反応も収縮反応も減弱していた. 5)ミトコンドリアにおけるスフィンゴ脂質の機能解析を行った結果,ミトコンドリアに多く存在する脂質カルジオリピンがセラミドキナーゼと直接結合し、その活性を濃度に依存して正と負に調節することを見出した.細胞レベルのカリジオリピン量を減少させるとセラミド-1-リン酸の生成が減少した.他のスフィンゴ脂質のレベルには大きな影響がなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究の達成度に関する自己点検,評価ではおおむね順調に進展していると考えている.昨年度から進めているラクトシルセラミドによるcPLA2alpha活性化機構の解析を詳細に進め,英文論文作成に向けた結果を集積中である.2)のテーマに関して,分泌型PLA2による細胞死がスフィンゴミエリン含量で変動したことから,スフィンゴミエリンが神経細胞死や免疫担当細胞の生存などを制御している可能性が考えられた.幾つかの細菌毒素はPLA2活性を有しており,また物理的に破壊された細胞からはPLA2が放出され,これらPLA2が細胞死に関与していると推定されている.また,細菌の細胞内侵入やウイルス感染にもスフィンゴミエリン含量やアラキドン酸が関与していることから,本研究は細胞死,感染などの生命現象の解明に有用であると考えている.3)の研究で見出された2種類蛍光発色団を有する新規化合物が作成できたことは今後の細胞内でのセラミド代謝を研究するうえで有用であると考えている.またcPLA2alpha,セラミドキナーゼ,スフィンゴミエリン合成酵素の活性制御を目的としたスフィンゴ脂質誘導体の作成は,ライブラリー構築に向けて数を増加させている.セラミドキナーゼノックアウトマウスを用いた潰瘍性大腸炎モデル動物の解析では大きな差異が観察されなかった。今後,さらに発症レベルを変動させた場合での差異検討が必要である.5)の研究において,カルジオリピンによるセラミドキナーゼの直接的結合を明らかにできたことは大きな成果であると考えている。ミトコンドリアにおけるカルジオリピンの新しい生理機能の解明などに大きな手掛かりを与えると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では,平成26年度,27年度に得られた成果を生かしながら,1)~5)の研究を継続発展させる.ラクトシルセラミドによるcPLA2alpha活性化機構の解析を詳細に進め,英文論文を投稿するレベルにまで研究成果を引き上げたい.2)のテーマに関して,分泌型PLA2による細胞死がスフィンゴミエリン含量で変動したことから,スフィンゴミエリンが神経細胞死や免疫担当細胞の生存などを制御している可能性が考えられた.今後は分泌型PLA2とスフィンゴ脂質との関連を分子レベルで明らかにすることを予定している.細菌の細胞内侵入やウイルス感染にもスフィンゴミエリン含量やアラキドン酸が関与していることから,本研究は感染や異物取り込みなどの生命現象の解明に有用であると考えている.今後は細胞死や異物取り込みにおけるスフィンゴミエリンやスフィンゴ脂質の役割解明も行いたい.3)の研究で見出された2種類蛍光発色団を有する新規化合物に関する研究に関しては,細胞内においてセラミドキナーゼやスフィンゴミエリン合成酵素で本化合物が代謝された後の蛍光の変化,細胞内移動などを今後検討して行きたい.また,連携している有機合成研究者の研究で得られたスフィンゴ脂質誘導体がcPLA2alpha,セラミドキナーゼ,スフィンゴミエリン合成酵素の酵素活性に対する活性評価を検討する予定である.セラミドキナーゼノックアウトマウスを用いた潰瘍性大腸炎モデル動物の解析を進め,大腸炎誘発後の回復時での検討を行う予定である.5)の研究においては,カルジオリピンによるミトコンドリアでのセラミドキナーゼの活性制御や生理作用の可能性を追及したい.また脂質のダイナミックな局在変化を考慮し,カルジオリピンの細胞内局在変化によるセラミドキナーゼ活性の細胞内制御の可能性を今後検討していきたい.
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