研究実績の概要 |
発達期の脳では、脳内免疫細胞であるマイクログリアが不要なシナプスを貪食により刈り込む。一方で、成体期の脳におけるシナプス再編成にマイクログリアが関与する可能性とそのメカニズムは未解明である。本研究では、シナプス密度の過度な上昇が病因の一つとされる自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder, ASD) をモデルとして、成体脳におけるマイクログリアのシナプス刈り込み能力を海馬歯状回―CA3野神経回路に着目し検証した。特に、運動がASD症状を緩和する可能性が示唆されているため、マウスの自発的な運動がマイクログリアによるシナプス刈り込みを誘導してシナプス密度を正常レベルに戻す可能性を検証した。 本研究では、ASD様行動を示す母体免疫活性化モデルマウス(poly(I:C)マウス)を利用した。コントロールマウスでは、歯状回顆粒細胞の軸索である苔状線維のシナプスは生後2-4週において除去された。一方で、poly(I:C)マウスでは、苔状線維シナプスが除去されず、成体期において苔状線維シナプス密度が増加していた。また、成体期の運動により、poly(I:C)マウスにおいてシナプス密度がコントロールレベルにまで減少した。 次に、これらの現象へのマイクログリアの関与を検証した。まず、発達期のpoly(I:C)マウスではマイクログリアによるシナプスの貪食度合いが減少していた。また、成体期の運動により、貪食度合いが増加した。さらに、運動と同時期にマイクログリアを抑制したところ、運動によるシナプス密度の減少が抑制された。 以上の結果より、poly(I:C)マウスにおいて、成体期における自発的な運動が海馬のマイクログリアを活性化させ、シナプスの刈り込みを誘導することが示された。
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