研究課題/領域番号 |
26460098
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
スイコ メリー・アン・ソテン 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (20363525)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子生物学 / 慢性腎臓病 / p53 / MEF / 物理刺激 |
研究実績の概要 |
Alport症候群 (AS) は,若年期からの進行性糸球体腎炎病態を主徴とする難治性の遺伝性腎疾患である.本疾患は,約5000人に1人の割合で発症する頻度の高い疾患であり,男性においては30代までに末期腎不全に至り,人工透析や腎移植を余儀なくされる.したがって,その治療法の開発が強く望まれているが,ASに対する根治療法は存在しない.一方,がん抑制遺伝子として知られるp53はユビキタスに発現する転写因子であり,多様な標的遺伝子発現制御を担うことで種々の外部刺激に対する細胞応答を誘導し,生体組織の恒常性維持に重要である.興味深いことに,ASマウスにおいては,病態進行に従い糸球体におけるp53タンパク質発現が低下していることが示された.そこで全身性p53欠損ASマウス (p53+/- or -/- AS) を作成し,p53+/+ ASマウスと病態を比較した結果,p53欠損によってタンパク尿,腎炎,腎線維化病態が顕著に促進されることが見いだされた.また,p53欠損によりASマウス糸球体における細胞性半月体形成が促進されたことから,podocyte増殖に関与することが示唆されたため,p53のpodocyteにおける機能を調べた,マウスポドサイト細胞株,初代培養糸球体上皮細胞を用いた検討の結果,p53はpodocyteの増殖・遊走を抑制し,またNephrinやPodocinなどのpodocyte機能遺伝子発現を正に制御し得ることが示された.そこでCRE-loxPシステムによりpodocyte特異的p53欠損ASマウスを作成し,病態を比較した結果,podocyte特異的p53欠損によってもAS病態が増悪すること,podocyteの増殖,足場構造の破綻,糸球体レベルでの遺伝子発現パターンの変化が生じることが示された.これらの結果より,podocyteにおけるp53がAS腎病態抑制的に働くことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,全身性p53欠損ASマウス (p53+/- or -/- AS) のみならず,CRE-loxPシステムによりpodocyte特異的p53欠損ASマウスも作成し,病態を比較した結果,p53の欠損はAS病態を悪化させること,podocyteの増殖,足場構造の破綻,糸球体レベルでの遺伝子発現パターンの変化が生じることが示された.podocyte特異的p53欠損ASマウスの作製においては,当初予定よりも順調に進行したために,本年度の予算としては残高が生じ,その分,来年度に次の実験を行うために残すことが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,p53の欠損は,AS病態を増悪することが明らかになった.本年度は,当初予定通りマイクロアレイ・プロテオームを用いた網羅的解析による,新規分子標的または診断マーカーの探索を行い,これらの分子を標的にしたAS治療が可能かどうかについての基礎的検討を行いたい.また,本申請者の注目してきた分子MEFと腎臓病の観点からも検討を行っていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,想定通りの実験が進行したが,そこに費やした予算は少額ですんだ.これは遺伝子改変動物等の入手が想定より容易であったことが考えられる.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降に想定している実験も多く,本年度予算の繰り越しは,それらの実験にあてる予定である.具体的には,マイクロアレイ解析やプロテオーム解析の遂行のためにあてる予定である.
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備考 |
遺伝子機能応用学研究室 http://molmed730.org/index.html
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