研究実績の概要 |
嗅球摘出 (Olfactory bulbectomy: OBX) マウスの記憶関連行動障害やうつ様行動には、海馬歯状回における神経新生の抑制が関与している可能性を報告した (Nakagawasai et al., Behav. Brain Res. 297: 315-22, 2016)。ヒダナシタケ目イボタケ科の担子菌ケロウジから単離された新規ジテルペノイドのスカブロニン(SG)類は、以前のin vitroの研究結果より、神経成長因子の増加と神経突起進展作用を有すること、そのSG類の中でもメチルエステル体 (SG-ME)がその効果を著しく示したことからSG-MEを用いOBXマウスの精神関連異常行動に対する効果を検討した。OBXマウスの脳室内にSG-MEを投与した際、記憶関連行動障害の改善及び抗うつ効果が認められた。そのSG-MEの記憶関連行動障害改善効果及び抗うつ効果には、脳由来神経栄養因子 (BDNF) の増加とそれに伴う神経細胞におけるTrkB受容体- extracellular-regulated protein kinase (ERK)- cAMP response element binding protein (CREB) 経路の活性化を介した海馬歯状回における神経新生細胞数増加が関与する可能性を行動薬理学的手法及び免疫組織学的手法を用いて証明した。さらに、SG-ME投与後の海馬スライスを用いシナプス伝達効率の上昇現象である長期増強作用も示すことを電気生理学的手法により証明した。本研究からSGのリード化合物が神経栄養因子を増加させ神経新生を促進し記憶改善効果や抗うつ効果がin vivoで認められたことから、今後、神経変性に基因した認知障害やうつ病患者を対象とした臨床応用に大きな一歩を踏み出した。
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