研究実績の概要 |
緑内障は、糖尿病網膜症とともに後天性失明や視力低下の原因として大きな割合を占める、社会的な問題ともなっている疾患である。本研究では、緑内障モデル(NMDA 誘発網膜神経傷害モデル)ラットの網膜において、1)神経細胞―グリア細胞―血管構成細胞間の相互作用の変化、と2)その変化における網膜グリア細胞の 1 つであるミュラー細胞の役割に焦点を絞り解析し、緑内障の新規予防・進行抑制戦略を提案することを目的とした。 昨年度までの検討により、緑内障モデルラットの網膜において、ミュラー細胞がグルタミン酸興奮毒性に対して mTOR 経路の活性化を介して保護的な役割を担うことが明らかになった。本年度は、Na, K-ATPase 阻害薬であるウワバインを眼内(硝子体内)に投与すると、ミュラー細胞の機能が障害されることを見出し、その結果として生じる網膜神経および血管の変化について詳細な解析を行った。そして、ミュラー細胞の機能障害は、1)網膜内のグルタミン酸処理能力の低下を招き、グルタミン酸興奮毒性に基づく網膜神経細胞死を引き起こすこと、2)ミュラー細胞における VEGF 発現を低下させることによって、網膜毛細血管の脱落を招くことを示唆することができた。本年度の検討結果により、ミュラー細胞の機能障害が緑内障の発症に関与する可能性とその機序が示されたことから、ミュラー細胞は緑内障の進行のみならず発症過程においても保護的な役割を担っていることが明らかになった。 ミュラー細胞の機能障害は網膜における神経及び血管の障害を招くという本研究成果は、ミュラー細胞による「神経―血管連関」の制御機構のより深い理解と緑内障発症及び進行機序の一端の解明をもたらしたものと考えられる。
|