研究課題/領域番号 |
26460106
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石毛 久美子 日本大学, 薬学部, 教授 (40212873)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳保護薬 / 脳梗塞 |
研究実績の概要 |
まず、新規脳保護薬候補物質の作用メカニズムの in vitroモデルにおける検討のためにマウス海馬神経由来のHT22細胞において酸化ストレス負荷後の細胞死誘発経路に関する基礎的検討を行った。HT22細胞においては、グルタミン酸による酸化ストレス誘発細胞死誘発経路に活性酸素種上昇後、Nrf2経路の変動が関与する可能性が示唆された。すでに、HT22細胞においては虚血再灌流障害のin vitroモデルである低酸素後再酸素化誘発細胞死とグルタミン酸誘発細胞死は、その誘発経路および保護物質が共通することを明らかにしている。したがって、低酸素後再酸素化誘発細胞死にもNrf2経路の変動が関与する可能性が高いと考え、現在、詳細な検討を加えている。次に、脳梗塞のin vivoモデルとしてローズベンガルモデルを使用するにあたり、障害誘発条件を検討した。緑色光の照射部位、および時間等を管理することで、再現性のある障害を誘発できるようになっており、現在、保護薬候補物質の影響についての検討に着手している。 研究代表者が提案する新規脳保護薬候補物質は、ドパミンD3受容体の拮抗薬として市販されているGR 103691がもとになっている。GR 103691は、受容体への作用とは無関係に抗酸化作用により細胞死を抑制することが明らかになっている。そこで、新規脳保護薬候補物質が、脳梗塞に限らずその障害誘発に酸化ストレスの関与が指摘されているモデルにおいて、広く保護作用を持つ可能性につて検討するため、まず、パーキンソン病モデルのMPTPモデルにおいてGR 103691の保護作用を検討したところ、GR 103691は、MPTP投与後の無動時間を有意に短縮し、GR 103691が脳梗塞以外の障害に対しても保護作用を持つことが明らかとなった。今後、新規脳保護薬候補物質についてもローズベンガルモデルだけでなくMPTPモデルでも検討して有効性を明らかにしたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vivoモデルにおける検討に関して、当初の計画より遅れが生じている最大の原因は、ローズベンガルモデルの作成に必須である血栓モデル作成用光源(初年度の予算で購入済み)の納品に要した時間が発注から3ヶ月以上と予想外に長くかかり、9月末となってしまったことである。その後、作成手技は、すでにこのモデルを作成したことのある研究者から教授していただくことができ、また、手技自体もそれほど難しいものではなかったためすぐに習得できたつもりであったが、検討開始当初は、梗塞巣は出現するものの、その体積にばらつきが大きく、モデル作成の基礎的検討(緑色光照射時間やTTC染色条件の検討など)から実施しなければならなくなったため、in vivoにおける研究スタート後、しばらくの間、新規保護薬候補物質の影響を検討することができなかった。したがって、ローズベンガルモデル動物において新規脳梗塞保護薬候補物質の効果を検討する点に関して、当初の計画より遅れている。しかし、実績の概要に記したように、すでにローズベンガル投与後の緑色光照射によって、再現性よく脳梗塞巣を作成できるようになっていることから、27年度は、まず、初年度の計画で未実施の部分を取り戻しつつ、その後の計画を計画通りに遂行したいと考えている。 これに対し、in vitroモデルにおける検討に関しては、HT22細胞において活性酸素種(ROS)の上昇が関連する細胞死経路にNrf2やCaspaseの関与する可能性が示される(実績の概要)など、ほぼ当初の計画通りに進んでいると考えている。したがって次年度以降も計画通りに進むものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の計画で計画通り遂行することができなかったローズベンガルモデル動物における新規脳梗塞保護薬候補物質の効果の検討を速やかに実施するとともに、申請時の研究計画書において27年度以降実施予定と記した内容のうち、特に、ローズベンガルモデルの行動薬理学的な評価を中心に実施する予定である。ローズベンガルモデルにおける行動薬理学的検討は、まず、保護物質を投与せずに行うため、保護物質の探索と並行して実施可能であると考えている。これまで、ローズベンガルモデルは、緑色光照射24時間後に、梗塞巣の有無および梗塞巣が存在する場合にはその体積を測定し、梗塞巣が出現することに加え、その大きさ(体積)が一定の範囲に入ることを確認してきた。この結果を踏まえ、まず、緑色光照射の24時間後に行動薬理学的検討を行う。実施項目としては、ロータロッドや無動時間などを指標とした運動機能およびステップスルーや新規物質探索試験などを指標とした認知機能の測定を予定しているが、運動機能に明らかな障害が認められた場合は、その点が認知機能テストの結果に影響しないように配慮する。一方、行動薬理学的評価は後遺症の評価系としての有用性も併せて検討することを目的とするため、光照射後、一定期間飼育したマウスにおいても検討することとする。光照射後、1週間までを検討する予定であるが,得られた結果により、観察期間をさらに延長する。行動薬理学的な評価終了後のマウスにおいて、梗塞巣の体積を調べ、行動薬理学的な変化と梗塞巣の大きさの関連についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までに論文投稿に至っていないため、投稿に関する費用(英文校正費をを含む)を使用していないためである。なお、実験用消耗品に配分額より高額が必要となったため、学会出張のための支出はやめ、消耗品の購入にあてた。
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次年度使用額の使用計画 |
実験用消耗品に配分額よりやや高額が必要となっている。したがって、実験用消耗品費に充当する予定である。
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