研究課題/領域番号 |
26460110
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
秋葉 聡 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70231826)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / マクロファージ / 炎症反応 / ホスホリパーゼA2 |
研究実績の概要 |
本研究では、起炎関連酵素であるIVA型ホスホリパーゼA2(PLA2)が、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症進展因子となることを、本酵素を介した細胞応答を担う病態責任細胞の同定をも含めて明確にし、実践的な応用として、特異的阻害薬による本酵素の抑制が病態の進展阻止に繋がることを実証する。この目的を達成するために、肝細胞または単球のみで特異的にIVA型PLA2を欠損させたマウスでの病態解析や、臨床応用への基礎としての新規経口性IVA型PLA2特異的阻害薬を用いたNASHモデルにおける病態進展阻止・治療効果の検証を行う。 報告者は、IVA型PLA2全身欠損マウスにおいて、高脂肪食または四塩化炭素投与下の脂肪肝形成および肝線維化が、野生型に比し抑制されていることを見出だしていることから、上記の本研究の目的で2014年度においては、まずはNASHでの脂肪肝形成および肝線維化に対するIVA型PLA2特異的阻害薬の抑制作用の有無について検討した。その結果、高脂肪食(16週間)または四塩化炭素(6週間)投与下の野生型マウスに、同時にIVA型PLA2特異的阻害薬を経口投与(~300 mg/kg/day)した条件下において、高脂肪食による脂肪肝形成および四塩化炭素による肝線維化が軽減されることを確認した。さらには、16週間の高脂肪食投与での10週間の投与終了時から、阻害薬の投与を開始する系においても脂肪肝形成および肝線維化は軽減されていた。また、肝障害の指標となる血清トランスアミナーゼ(ALT, AST)値の上昇や、また、炎症の初発要因である単球走化因子(MCP-1)のmRNA発現量の増大も、特異的阻害薬の投与により軽減されていた。これらの結果から、新規経口性IVA型PLA2特異的阻害薬は、NASHにおける炎症に伴う脂肪肝形成および肝線維化に対して治療効果を示すことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年度においては、単球特異的なIVA型PLA2欠損マウスを用いて、NASHにおける脂肪肝形成および肝線維化への単球のIVA型PLA2の関与について検討する予定であった。しかし、単球特異的なIVA型PLA2欠損マウスを、IVA型PLA2flox/floxマウスと単球系細胞でのみCreリコンビナーゼを発現するマウス(B6.129P2-Lyz2tm1(cre)Ifo/J)との交配により作出を行っていたが、高脂肪食または四塩化炭素の投与実験を行うほどの匹数を得ることができなかったことから、上述の検討が行えなかった。ただし、当該マウスにおいて、多くの単球がLyz2を発現していることから、単球(マクロファージ)でのみIVA型PLA2が欠損していることをイムノブロットなどにて確認した。
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今後の研究の推進方策 |
単球特異的なIVA型PLA2欠損マウスの作出を継続するとともに、一旦、全身でCreリコンビナーゼを発現するマウスを用いたIVA型PLA2全身欠損マウスの作出も試みる。前者は、NASHにおける脂肪肝形成および肝線維化への単球中のIVA型PLA2の関与についての検討に用いる。一方、後者は、申請者がこれまでに用いたIVA型PLA2全身欠損マウスの結果(FASEB J., 2012; PLoS ONE, 2009)と一致することを確認する。ただし、2015年度では、前年度よりも飼育するマウスの匹数を増やすことで、目的のIVA型PLA2欠損マウスの作出数を増やす必要性がある。 上記の内容は実験材料の準備にあたることから、これらを実行する一方で、IVA型PLA2全身欠損マウス由来のマクロファージや肝細胞を、または、IVA型PLA2特異的阻害薬を用いて、細胞レベルで本酵素を介した病態に関連した細胞応答を同定していく。この細胞応答とは、主に炎症惹起因子や脂質代謝に関連する酵素および生理活性因子である。 効果的なNASHの治療戦略が確立されていない現状で、本研究では、IVA型PLA2を病態制御標的分子としたNASHの発症進展機構および薬物療法における新規観点の提示を目指していく。
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