研究課題/領域番号 |
26460115
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
木村 英雄 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 神経薬理研究部, 部長 (30321889)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 硫化水素 / D-システイン / 細胞保護 / ポリサルファイド / TRPチャネル |
研究実績の概要 |
申請者らは、D-cysを基質としてH2Sを生産する経路を発見した。DAOがD-cysを3-メルカプトピルビン酸(3MP)に代謝し、これから3MSTがH2S を合成する。DAO/3MST経路は小脳と腎臓で機能しており、in vivoでのD-cys経口投与により、H2Sの貯蔵型である結合イオウが腎臓で顕著に増加する(Shibuya et al., Nature Commun, 2013)。DAO/3MST経路によりH2Sが合成され、結合型イオウが増加することを、3MSTノックアウトマウスを使って示した。このマウスにおいては、H2S は合成されず、結合イオウも増加しないことが予想された。3MSTノックアウトマウスはEmory大学 からLSU Health Science Centerに移動したDavid Lefer教授から受領し、飼育している。D-cysは腎臓で小脳の約7倍の効率でH2Sを合成し、腎臓では、D-cysはL-cysに比べ、80倍の効率でH2S を合成する。D-cys経口投与により、H2Sの貯蔵型である結合イオウが腎臓で顕著に増加し、虚血再還流障害から腎臓を保護する(Shibuya et al., 2013)。3MSTノックアウトマウスでは、結合型イオウの合成が著しく弱いことを確認した。これから、クレアチニンレベル、特にワイルドタイプマウスで顕著な差が観察された糸球体の構造について検討を進める。予定にはなかったが、H2Sが酸化されてできるポリサルファイドH2Snが神経細胞への分化を促し、神経突起伸長を誘導し、このとき、Ca2+の流入が重要な役割を担うことを明治薬科大学、小笠原教授との共同研究で発見した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 459, 488-492, 2015)。 平成26年6月4-6日に、京都大学芝蘭会館およびメルパルクにおいて3rd International Conference on Hydrogen Sulfide in Biology and Medicineの大会長を務めた。その他、サンディエゴ、ナポリ、クリーブランド、ケープタウン、ロシアのカザンで開催された5つの国際学会において招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定にはなかった明治薬科大学との共同研究が順調に進み、論文発表を行った(Biochem. Biophys. Res. Commun. 459, 488-492, 2015)。この研究は、本計画と関係が深く、しかも、H2SからできてくるH2Snの重要な生理作用である神経突起伸長に関わる研究であるため、優先して進めた。このため、当初の計画よりも多くの研究をこなすこととなったが、当初計画していた研究はおおむね順調に進んでいる。 平成26年6月4-6日に、京都大学芝蘭会館およびメルパルクにおいて3rd International Conference on Hydrogen Sulfide in Biology and Medicineの大会長を務めた。その他、サンディエゴ、ナポリ、クリーブランド、ケープタウン、ロシアのカザンで開催された5つの国際学会において招待講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らは、H2Sが酸化されてできるポリサルファイドがアストロサイトのTRPA1チャネルを活性化し、細胞内Ca2+濃度上昇を誘起することを発見した(Kimura et al., FASEB J. 2013)。ポリサルファイドによるTRPA1活性化メカニズムを解明する。TRPA1のアミノ末端のシステイン残基がさまざまな刺激性物質に対して感受性を示す。このシステイン残基はポリサルファイドの良い標的で、これを過硫化して活性化する可能性が高い。このシステインをセリンなどの他のアミノ酸に置換した変異体を作成し、感受性の違いを検討する。また、HPLCによる検討では、脳内に内在性のポリサルファイドが存在していることが分かっており(Kimura et al., FASEB J. 2013)、LC-MS/MSをも使って検討を進める。 東大薬学部との共同研究で、H2S 生産酵素阻害剤として可能性のある化合物を構造活性相関により絞り込み、これからCBS、CSE、3MSTに添加し、酵素反応の阻害効果を測定し、特異的阻害剤を選定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文発表のための、論文投稿料および別刷り(オープンアクセスを含む)を予定していたが、今年度中には発表に至らなかったため、次年度に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
現在投稿中の論文の論文投稿料および別刷り代(オープンアクセスを含む)として次年度に使用する。
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